「なんでやねん。なんで裸やねん。どこに正座してんねん。ひとりでなにやってんねん自分」ぼくはおもわずそうツッコんだ。
すぐに、ぼくは自分の発言を後悔した。しまった。関西人でもないのに関西弁をつかってしまった。とても罪深いことだ。関西人にきかれていたら殺されてたかもしれない。反省。ぼくは自分の口をぶん殴った。バキッ。
「ねえねえ」火星人パピコがいった。「おきたなら遊ぼうよ。わたし、お馬さんごっこしたいな。相田くん馬になってよ」
やれやれ、ぼくはため息をついた。女の子って気まぐれだ。
ぼくは床にしずかに足をおろし、いなないた。
「ヒヒーン!」
裸の火星人美女とお馬さんごっこってのもわるくないなって思ったんだ。
「ヒヒーン!」
火星人パピコは目を輝かせた。
「ハイヤー!」といって彼女は僕の首に飛び乗った。「おーけーグレイトホース、わたしを夜の果てまで連れてって」と彼女はいった。
ぼくは火星人パピコを肩車したまま駆け出した。弾丸のように家を飛び出した。夜の果てまで行くために。靴もはかずに。
夜の果てにはすぐ着いた。
ぼくらはそこで相撲をとった。
そしたら驚いたのなんの!
ぼくは火星人パピコに負けた。何度やっても勝てなかった。
「なんでそんなに強いんだよ!」とたまらずきくと、彼女は胸を張って誇らしげに強さのわけを語りはじめた。
「まあ昔の話よね。三百年前、わたしはどこにでもいるただの美しい少女だった。家は裕福で、友だちも家来もたくさんいて、はっきりいって薔薇色の人生を過ごしていたわ。だけどある日事件が起きて、わたしの人生を……わたしという人間を……なにもかも、メチャメチャのグチャグチャにしてしまった。夜祭りから帰る道中で、わたしはとある変質者に出くわしたの。その男は自らを天才科学者だと名乗り、わたしをたぶらかした。ぼくは天才科学者だから一緒にぼくの家に行こうよ、と彼はいったわ。とうぜんわたしはついて行った。だってわたしはまだ無知で、世界に悪い人が存在するなんて思ってもみない、純粋無垢な少女だったのだもの……。そしてわたしは改造された。自称天才科学者の家で体中を、完膚なきまでに、執拗に、徹底的に、隅から隅まで、あますとこなく改造されてしまった……」
ぼくは、ごくりと唾をのみこんだ。
「それで、どうなったの?」とぼくはきいた。
「それで……わたしは……トゥルニエ女になった」と火星人パピコはいった。
以下、要約。火星人パピコがいうにはトゥルニエ女とはつまり、アンドロメダ銀河の果てにあるサパパパパナムという星で採れる希少金属《トゥルニエ》と融合してしまった女性のことだという。彼女は三百年前、自称天才科学者の家で無理やり全細胞にトゥルニエを埋めこまれ、DNAレベルでがっちりそれと融合して完全なるトゥルニエ女になってしまったのだ。