「お前の弱点はどこだ」
ある日ぼくは白望山のふもとの道で、見知らぬ河童にそうきかれた。
「腹」とぼくはこたえた。
それは真っ赤な嘘だった。ぼくの腹筋はバキバキなのだ。
河童はおりゃっといって殴りつけてきた。河童の緑の拳が、ぼくの鋼の腹のうえで腐った豆腐のように砕け散った。
うわあああ! と河童は叫んだ。うわああああああああああああ!
まったくうるさいったらありゃしない。
ぼくはくるりと回転した。河童の側頭部へまわし蹴り。バコン!
河童はゴムボールのように空の彼方へ飛んでいった。
上空では太陽が目をまるくしてぼくを凝視していた。
「まったくなんて乱暴者なんだ、きみは」と太陽はいった。
ぼくはペッと唾を飛ばしてやった。
ジュワッと音をたてて太陽は光を失った。
それで、その日は夜になった。
ぼくはスキップで仙人峠のアパートへ帰った。アパートでは座敷わらしのハナ子が釈迦とオセロをしていた。
「おいおいおい」とぼくはハナ子に駆け寄った。「なにをやってるんだきみは」
「邪魔しないでよ。いま勝ってるんだから」と彼女はいった。
「釈迦が来てるなら連絡してくれよ。知ってたら急いで帰ったのに」とぼくはいった。
ぼっほっほ、ぼっほっほーん、とトロンボーンのような声で釈迦が笑った。
「おれはゴンゲサマだよ」と彼はいった。「釈迦じゃないよ。ぼっほっほーん」
しまった! とぼくは思った。よく見ると、たしかに彼はゴンゲサマだった。釈迦じゃなかった!
どうもすみません、と一言謝って、ぼくは彼を窓ぎわへ連れていった。
訪問のわけを問いただした。
「それで、いったいぜんたい何の用だ!」
ゴンゲサマは窓をあけて最寄りの星に手をのばし、指先でつまんで、どこか悲しげな瞳をぼくにむけた。
「大いなる力をきみに与えよう」といって彼は、星をぼくのひたいに碁石のように打ちこんだ。
パチーン!
こうしてぼくは第三の瞳を手にいれた。
「無垢なる者よ。今日、この瞬間から、きみはおれの兄弟だ。ぼっほっほーん」とゴンゲサマはいった。
そして彼は窓わくに足をかけ、飛び立った。腕を翼みたいに使ってバサバサバサバサバサバサバサーっと夜空の彼方へ消えてった。