小説

『トゥルニエ女パピコ』義若ユウスケ(『竹取物語』)

 終戦記念日に、デパートの屋上でマリファナを吸いながら花火をみていた。すぐとなりには火星人パピコがいて、ありきたりな恋のときめきがぼくの胸を満たしていた。火星人パピコはぼくの右手をにぎっていた。
「今日、うちホストファミリーいないんだ」だしぬけに彼女がいった。
「花火、そろそろおわるね」とぼくはいった。
 夜空で数百発の亀形巨大花火がたてつづけに炸裂し、デパートのうえの見物客にカラフルな火の粉をあびせかける。ぼくは鉄の傘をひらいて火星人パピコとぼくを火の粉からまもった。
「なんか急に用事ができたとかいってね、昨日の夜、うちのホストファミリー全員どっかいっちゃったの。だから今日も、明日も明後日も、うちにはわたししかいないんだ。一週間はもどってこないっていってた。だから相田くん、泊まりにおいでよ」と火星人パピコがいった。
 彼女のサファイア色の瞳が照りつけるようにみつめてくる。
「花火に集中しろよ」
 そういって、ぼくは火星人パピコの左頬を右フックで打ちぬいた。火星人パピコは白いプラスチック製のイスからころげおちて、コンクリートのうえに手をついた。びっくりした顔をしている。
「てめえせっかく高い金はらっていいとこでみてんだから、よそみしてんじゃねえよ。殺すぞ」とぼくはいった。
「ごめんなさい」と火星人パピコは素直にあやまった。
 やがて花火がおわった。ぼくはマリファナを吸いながら、火星人パピコと手をつないでデパートの屋上からおりた。外は人でいっぱいだった。みんな駅にむかっているのだ。
「人口密度やべえ」といって、どこかの大学生が嬉しそうにはしゃいでいた。
 顔面の脂ぎったくそ大学生め。なんとなく腹がたったからぶん殴ってやろうと思った。しかし、ふりあげた腕を火星人パピコがつかんで邪魔した。
「りんご飴、たべたい」と火星人パピコがいった。
 わるくない、とぼくはおもった。ぼくたちは人の流れにさからって屋台のあるほうへ歩いていった。りんご飴をふたつ買った。屋台のまえで、二人ならんでしゃくしゃくたべながら、ぼくはふと気になって火星人パピコに質問した。
「そういえば、今日はなんでぼくを誘ったの? あんた桐島先輩とつきあってるってきいたけど、わかれたの?」
 火星人パピコはくすくす笑った。
「わかれてないよ」と彼女はいった。「でも、こないだケンカした。わたしたちいま冷戦中なんだ」
「ふーん」ぼくはりんご飴をひとくちかじった。
「でもほら、今日、終戦記念日でしょ? 戦勝星マーズの一員であるわたしとしてはもう、朝から心うきうきはずみまくりでさ、どうしてもじっと家にとじこもってることなんかできなかったんだ。それで、だれか誘って遊びにいこうとおもって一組のクラス名簿をひっぱりだしたの。そしたら相田くん、あなたの名前がさいしょに目についた」
「なるほど」

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