芳平は、少し不安そうな目でこちらを見ている少年をちらりと見た。そしてきっぱりと言った。
「今まで持って行ったCDは返してもらいます。それから、教経さん。あんたには相応の罰を受けて頂く。いいですな。」
教経はさっと立ち上がり、
「なんなりと。死ぬことは帝に許して頂けませぬ故、それ以外なら喜んで受けましょう。」
こちらもさっぱりとした口調で言った。
「お疲れさま~。気をつけてね。」
いつもの気のいい口調で芳平はアルバイトを送り出す。
「お疲れさまで~す。」
最近新しく入った若い女の子のアルバイト店員は、スマホの画面を見ながらルンルンと帰って行った。
「気をつけろと言っちょるのに、さっそく歩きスマホかい。」
芳平は苦笑いして、店の照明を落とす。
「さて、と。」
芳平は店の入り口に行くと、誰もいない自動ドアの横に声を掛けた。
「今日も一日お疲れさん。ありがとね。」
「うむ、今日も異常は無し。万事おうけいだ。」
ぼんやりと靄のように姿を現した鎧武者は、芳平に対して親指を立てて見せた。
「うんうん、それが何より。」
芳平も応えるように親指を立てる。
「しかし、しーでーを盗もうとする輩自体が、最近は滅法減ったな。我は暇でたまらないが、良いことではある。平和になったということか。」
「いや、最近はね、もうCD自体が売れなくなってるんよ。」
少し寂しそうな口調に、教経は少し不安を覚える。
「商いは大丈夫なのか。」
「まあ、しばらくはねぇ。……あ、そうそう。」
暗くなりかけた空気を取り払うかのように、芳平は明るい口調で言った。
「今日は給料日じゃったね。ほい、これ。先月に帝さんからリクエストされてた通り、へヴィロックを多めにしちょるよ。」
芳平は一枚のメモリーカードを差し出した。
「いつも手間を掛けさせてかたじけない。しかし、便利な世の中になったものだ。帝はしーでーの方が音は良いと言っていたが。」
「ワハハ、圧縮音源と非圧縮音源の違いが分かるなんて、帝さんは相当耳がええんやね。でもCDをコピーするのは時間が掛かって面倒くさいんよね。入る曲数も少ないし。まあどうしてもっていうなら、CDにするよ。」
「そうか。ではまた帝に聞いておく。」
そう言うと、その荒武者はいかにも大事そうにメモリーカードを胸当てへとしまい、ゆっくりと姿を消した。