小説

『ちょろきゅう』太田純平(『たのきゅう(民話)』)

「ど、どちらに――」
「すぐそこ」
 僕と女子高生は、暫く住宅街を歩いた。
 小学校の前を通ると、いきなり女子高生がフェンスを越えて敷地内に入った。
 彼女は僕に「来い」とも「来るな」とも言わなかった。
 ただ、物憂いているような感じで、誰もいない校舎を見つめていた。
 今なら、逃げる事だって出来そうだ。
 しかし僕は、その場の空気に耐えきれず、気付いた時には、フェンスに手を掛けていた。
 暗闇を少し歩いた。
 給食室の裏だろうか。女子高生が突然立ち止まった。
 僕が「これから、一体何をするのか」と訊こうとした瞬間、彼女の唇が――。

 翌朝。
 僕は制服を着て、いつものように家を出た。
 イイ陽気だ。
 風が気持ちイイ。
 太陽さん、いつもありがとう。
 今の僕ならきっと、あの鳥だって捕まえられる。宇宙だって支配出来る。
 なんだよ。
 自分が変われば、こんなにも世界は変わるのか。
 僕は颯爽と、中学の正門をくぐった。
 教室に入ると、僕は人生で初めて女子達に「おはよう」と声を掛けた。

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