小説

『ちょろきゅう』太田純平(『たのきゅう(民話)』)

「まず、目を見つめてくるじゃないですか。そのくせ、目が合うとすぐそっぽ向くし。馴れ馴れしくボディタッチもしてくるし、どうでもいい事ですぐ笑うし。それに―――」
「オマエ童貞か」
「ハイ?」
「童貞か」
「まァ、ハイ……」
 僕はまだ十五歳になったばっかりだ。童貞であっても何ら恥じる事は無いと思うが、沼田は勝ち誇ったような顔をしている。正直ムカツク。
「お互い秘密だな」
「秘密?」
「バレたくねぇだろ、童貞だって」
 一瞬「イヤ別に」と反論しかけたが、バカらしくなってやめた。
「ちょろきゅう」
「ハイ?」
「オマエ、明日も来い」
「えッ」
「俺がカツアゲのやり方教えてやる」
「……」
「困ってんだろ? カネ」
「……」
 その後何回か武蔵野線が通った後、僕は沼田に解放された。

翌朝。
僕は学校のトイレでカツアゲに遭った。
「だから持ってないよ」
「お前いつもマックにいるだろ」
「いるけど――」
「だったらあるだろカネ」
「いつも拾ってるから――」
「アァ?」
僕は図書部の幽霊部員。
こいつらは野球部のレギュラーメンバー。
世の中、弱肉強食だ。
「イイから出せよカネ」
「お、お金よりも、イイ事教える」
「アァ?」
「君達も被害に遭ってんだろ? カツアゲの――」
「……」
こいつらだって、結局中学生。学校の柵を飛び越えれば、たちまち食われる側に回る。

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