天井を見つめながら翔太は現状を思い出していた。
ゆっくりと寝袋のチャックを引き下げて彼は起き上がる。
そう、今はあの別荘なんだ。一眠りだけと寝袋に入って床で寝ていたんだ。
翔太は冷静に判断し、現状の把握に努めた。
起き上がった体はねっとりとした汗まみれだ。寝袋の中を触れば不快に思える程に。
翔太は頭を抱え込んで唸る様に息を吐いていた。
――何て夢を見るんだ。
額に溜まった汗を手で拭いながら、翔太は心中で苦笑していた。こんな夢を見て動揺している自分に。
暗い部屋中、息を整え、鼓動の収束を待つ。
冷静になるに連れて喉が渇く。このまま我慢をして寝た方が都合がいい。
だが不愉快だった。この乾きも先程の夢も。
翔太は溜息と供に立ち上がっていた。
明かりも点けず、ダイニングで僅かに漏れる月明かりを頼りに翔太はコップを手に取っていた。
蛇口のコックを上げ、勢いよく出る水道。泡混じりに縁近くまで水を注ぐ。
色々と片付けが面倒だが仕様がない。
カルキ臭の有る水道水。我慢も何も、もうそれを一気に飲み干すしかなかった。
乾きは潤せた。もう物は必要ない。
翔太は大きく息を吐いた。乾きは取れても閊えたものは消えていない。
能動的に視線が向かう。ダイニングに続くリビング奥先を。
知っている。胸に閊えている物が、その奥に有るのを。
窓から入る蒼い月明かり。その斜光が仄暗く照らすが白い扉。
時折に光が薄まり消え、扉が闇の中に。そしてまた蒼く写し出す。
雲が早く流れていた。不規則に月を覆い隠す。
白い扉は不気味に佇んでいた。
僅かな枠の隙間から、ねっとりと澱んだ空気が漏れ出て扉を歪ませている。
その様に見える。錯覚だ。
その理由も分かる。
扉向こうの物を知っているからだ。
沙織、巧巳、啓太。三人の亡骸が有るのだから。
翔太は高鳴る鼓動を無視して臆せずに扉まで近づく。そして無造作にノブを回し開ける。
開けた途端にズボン裾の下から入る冷ややかな空気。直ぐに背筋まで撫でてくる。
当たり前だ。部屋を極力冷やしているのだから。
翔太は暗中の部屋を持っていた携帯ライトで照らした。
目前に三つの袋が横たわる。この日の為に用意した死体袋。
翔太は一つの死体袋の前で屈み座った。