あーあ、またこいつの口任せが始まったよ。
翔太はウンザリしていた。
啓太は悪い奴ではない。
そこがミソだ。日頃から悪行をしない。隠匿にやる。要は悪い事はしないではないのだ。
無謀で無鉄砲。良し悪し考えずにやってしまう馬鹿者。
それで煽りを食らうのが翔太だった。
沙織と啓太は親が知り合いの幼馴染み。翔太は幼稚園からの付き合いだ。
幼い頃は可愛げで済ましていたが。
最近、本気で縁を切りたいと思う存在だ。
「ほら、覚えてる? 啓太が屋根からのアレ」と沙織が言った。
「あー、アレね。高いポールを立てて、先にロープを付けて飛ぶやつね」
「僕も覚えてる。屋根から屋根へってね。ぐるーっとポール中心に周りながらロープに掴まって、それで途中の塀を格好よく越えて隣の屋根まで飛ぶのね」
「アレは上手くいったら格好よかったのにな……」と啓太はしみじみと言っていた。
「何が上手くいったらよ。成功したって、あんな無謀な挑戦が格好いいなんてないわよ」と沙織は怪訝だ。
それに同意する様に頷きながら巧巳が言葉を続けた。
「そうそう動画も撮影してたけどね。失敗して、ちゃんと写ってたらハプニングとして笑えたけど」
「コイツが飛ぶ前に心配になって、確認でロープを引っ張ったら立てたポールが倒れ始めたんだよな」と渋い顔で翔太が言った。
「あんな高いポールが倒れ始めるから、私達はあーって感じでポールを目で追っちゃって」
「カメラもポールを撮影しちゃったんだよね」
「で気付いたら啓太はいなくなってたんだよな。バランス崩して知らない内に屋根から落ちてたと」
光景を思い出し、三人は溜息交じりに声を揃えていた。
「……情けないわ」
「何だよっ、情けないって! まさか倒れるって思わなかったんだよ、ポールが!」
いやそれを見てバランス崩して落ちたアンタが情けないんだよ。三人の思いは一緒だった。
「どうせ今回もそんな感じで死んだんでしょ?」
「ここの別荘の階段さ、広くて長いじゃない。お城みたいなさ。多分、啓太君はそこで何かやって転げ落ちたんじゃない?」
「ああ、階段をスキー板で滑り降りるってか? それやりそうだ」
三人はその話で笑い合った。それを見てわなわなと肩を震わせながら啓太が立ち上がって吠えた。
「そんなスキー板で滑り降りるなんて事するか!」
立ち上がった啓太を三人が一斉に見る。そして彼は自信満々で言い放った。
「スノーボードで降りたんだ!」