鼓動は更に高まる。正直に怖いか。絶対にあり得ない。あんな夢ごときで。
静かに袋のチャックを下ろした。
小さな明かりで写すのは啓太の死体だ。灰色に見える肌。黒ずんでいる唇。僅かに開いた瞼下には白眼しか見えない。
翔太の鼓動は高まったが、頭の中は驚く程に冷徹だ。
そうさ、そんな筈は有りはしない。
全て計画通り。別荘へと連れてきたのも。心中と見せる死に方も。工作に死体を冷やすのも。
そう計画通りなんだ。
翔太は死体袋のチャックを上げていた。
別荘外は強風が舞っていた。
波打つ木々が煽ってざわめき立ち、時折に唸る風音が去って行く。
もう満月は厚い乱雲に呑まれ切っている。音のない雷光さえ見えた。嵐が近い。
その荒れる一方の雲行きの下で、ザクザクと土を掘る音が在り在りとしていた。
翔太は地面を掘っていた。
側には三つの死体袋。
いきり立つ様に彼は土にシャベルを食い込ませる。
全てが台無しだ。だがどうしようもない。
恐怖に駆られたのではない。そう言い聞かせながら、翔太は噴き上がった不安を抑えきれない。
その不安は、尋常ならぬ動力となった。
もう数時間は掘り続けている。汗だくだ。だがその労力に見合う穴の深さに達していた。
穴の深さは二メートルに。気付いて自身で呆れた。ここまで掘ったのかと。
十分だと思った翔太は、使ったシャベルを足場に穴から這い上がった。そして三つの死体袋を必死になって引きずり穴側まで持って来た。
後は落とすだけだ。そして何もかも埋めてしまえ。
翔太は一度、穴の中へ戻った。足場にしてしまったシャベルを回収する為だ。
シャベルを穴から放り出すと、自身は穴の縁を掴み、必死に這いずり出ようとした。
その瞬間だ。行動とは反し、視界が一瞬でずり下がってゆくのは。
滑り落ちたのではない。
掴んだ縁土も、登ろうとした土壁も、目の前の物全てだ。
彼に向かって来た。
「うわぁぁぁーー!?」
翔太は知る由も無かった。