小説

『意地悪なお姉さん』鷹村仁(『シンデレラ』)

「それは結果論であって、たまたま王子様が好きになっただけでしょ。そもそもシンデレラの物語は容姿の話ではなくて心根の話じゃん。シンデレラは心根が良かったのよ。そしてお姉さんたちは心がブスだったのよ。」
「・・・。」
 ずっと容姿の話かと思っていた。ここにきて新展開を迎えた。シンデレラは心根の話なのか。
「じゃあお姉さんたちの心根が良かったら?」
「さあ、お姉さんたちが選ばれたかもね。」
「・・・。」
「だから、冴子は美和ちゃんをひがんじゃだめだよ。加藤が好きなら告白すればいいじゃん。ひがむと心がブスになるよ。」
「・・・。」

 放課後いつものように美和と一緒に帰った。会話はほとんどなく、学校での薫との会話が頭から離れなかった。「心がブスになるよ」。この言葉は自分にピッタリだった。美人の彼女を最初見た時、歓迎はしなかった。むしろ嫌だった。さして美人じゃない自分に、同い年の美人な家族はいらないと思った。そして人気がでていく彼女も、男の子からモテる彼女も嫌だった。横を歩いている美和を見る。姿勢正しくまっすぐ前をみている。その横顔もとても綺麗だった。正直私はこの人みたいになりたいと思った。
「美和ちゃん。」
 立ち止まり、美和に話しかける。美和はこちらを見つめてくる。
「あのね、私ね、好きな人がいるの。」
「・・・。」
 美和はこちらをじっと見つめている。ドキドキがとまらない。この事を言ったら美和はどんな反応をするのだろう、全く想像できなかった。だけどこのままひがみ、妬んでいるだけではいけない。
「あのね・・・。」
 心臓が張り裂けそうになる。
「・・・。」
「・・・私も加藤が好きなの。」
 美和が大きな目を見開き見つめてくる。そしてにこりと微笑む。この後どうなっていくのかは分からなかったが、私はこのまま「意地悪な心根がブスなお姉さん」にはなりたくなかった。

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