小説

『意地悪なお姉さん』鷹村仁(『シンデレラ』)

 美和の表情が沈んでいく。なんだかこちらが意地悪をしている気分になってくる。ただ聞いてみたいだけなのに。
「聞きすぎた。ごめんね。」
「ううん。大丈夫。ごめんね。」
 そのあと、ふたりの会話はなく無言で帰った。

 日数が経てば美和に対する周囲の興味は収まるかと思ったが、ひと月たっても収まらなかった。そして意外だったのは男子の評判はいいとしても、女子からも評判が良かった。綺麗な女性に見られる「お高くとまる」というものが美和にはなかった。誰にでも笑顔で接し、控えめで謙虚さがあった。中途半端な控えめさだったら、反感を買ってしまうだろうが、美和のそれは突き抜けていた。
「冴子ちゃん、帰ろう。」
 初日から、一緒に帰るのが当たり前になった。しかし、そんな他愛もないことでも嫌なことがある。それは帰り道を狙った男子からの告白だった。
「ちょっといいですか。」
「好きなんだけど。」
「付き合って。」
「彼氏いるの?」
「もしよかったら友達になってもらえませんか。」
 様々な言葉で美和に近寄ってきた。それも他校の学生も言い寄ってきていた。そしてそんな時、隣にいる私は非常に虚しさと怒りを覚える。「だから美人は鬱陶しい」と。美和は全ての告白を丁重に断った。
「モテるね。」
 ひがみをぶつける。
「・・・。」
「嬉しくないの。気分いいでしょ。」
「そんなことない。」
 美和はまた表情が曇る。
「なんで?」
全く意味が分からなかった。私だったら気分がいい。
「お母さんからいつも言われてるの。調子に乗るなって。」
 良い事を言う母親だ。私の母親でもあるが。
「ちやほやされて調子に乗ってると痛い目にあう。だからしっかり勉強して自分が信じられる技術を身につけなさいって、いつも言われてるの。」
 美和がお高くとまらない理由が分かった。返す言葉がなかった。完璧な女。嫌味な所が少しでもあれば思いっきり嫌いになれるのだが、一つも見当たらない。「気分いいでしょ」なんてバカみたいな質問をした自分がクズに思えた。
 そしてその完璧さを裏付ける出来事が起こった。

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