小説

『意地悪なお姉さん』鷹村仁(『シンデレラ』)

 にやにやしながら薫が返事をする。何かイラついた。しかし家族であることを内緒にしておきたかった私の考えは、放課後すぐに壊れてしまった。

 「冴子ちゃん、一緒に帰ろう。」
 美和がクラスのドアのところで私に手を振ってきた。自分が目立っていることなど全く分かっていない様子だった。クラスの視線は私に集中した。無視する事も出来ず、一緒に帰ることになった。
「ごめんね。急に一緒に帰ろうなんて。」
 美和は謙虚に言ってくる。
「いいよ、別に。同じ家に住んでるんだから。」
「ありがとう。」
 安心したようにニコッと笑う美和。目元が三日月の形になり愛くるしい顔になる。この女は自分が美人だと分かっているんだろうか?
「ねえ、一つ聞いていい?あなたモテるでしょ。」
「え、」
 美和は目を丸くして動揺する。
「モテるでしょ?」
「どうしてそんな事聞くの?」
 美和は少し表情を曇らせる。
「美人の友達って私いないからさ、美人の気持ちってどうなんだろうなあ、と思ってさ。」
 なんだか嫌味っぽく言ってしまった。
「友達じゃなくて家族でしょ。」
「・・・なんでもいいよ、気持ちが知りたいの。モテるでしょ?」
「分かんない。」
「告白されたことはあるでしょ?」
「・・・うん。」
「何人?」
「・・・分かんない。」
「分かんないくらいの人数に告られたの?」
「・・・。」
 美和は眉間にしわを寄せ、首を傾ける。なんて羨ましい限りだと思った。こっちはまだ一度も告白などされたことがない。
「どんな気持ち?」
「え?」
「告白されるのってどんな気持ち?」
「分かんない。」
「分かんない事ないじゃん。いい気分とか、煩わしいとかあるじゃん。」
「そんな事、思ってない。」

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