その瞳はやっぱり僕をじっと見ている。
「ふふ。よろしく、桃太郎。素敵な名前をありがとう」
そのまま翼を広げると、優雅にまた空に舞い上がっていた。
「ふん。好きにしろと言ったのだ、好きにするがよかろう」
サトルは少し前に出ながら話しかけてきた。
やっぱり、名前で呼ぶと、お互いの距離が少し縮まった気がする。
まだ十分わかりあえたわけじゃない。
そもそも、全てをわかるはずがない。
全てを知るなんて、不可能なことだ。
――でも、一緒にいる時間は、お互いのことを分かり合うことはできるんじゃないかな?
仲間でなくても、歩いては行ける。
でも、目的地が同じなら、たぶん仲間になった方が楽しいはず。
そんな僕の想いを感じてくれたのか、僕を見るポチがにっこりと笑顔を見せていた。
*
それからしばらく歩いていくと、鬼ヶ島を目の前にする浜辺にたどり着いた。
ここからは、どうしても船がいる。
でも、周囲を探しても船など一艘も見当たらなかった。
「ヒトミさん、どこかに船はない?」
空を飛ぶヒトミさんに聞いてみた。
確かに頭の中で話が通じるのは便利だ。でも、なんだかちょっと物足りない。
「無いわね。あと、鬼ヶ島にも無いわよ」
そう言えば、ヒトミさんさっきまでいなかったと思ったら、もうそんなところまで見てきてくれたんだ。
「ありがとう、ヒトミさん」
先についたヒトミさんは、困る僕のために偵察までしてくれた。
感謝した時には、ちゃんと伝える。
それはお爺さんとお婆さんから教えられたこと。
でも、どうしよう……。
途方に暮れる僕をよそに、波打ち際を見ていたサトルが空を見ながら話しかけてきた。
「この分だと、夜まで待てばよい。じきにわかる。それまで休憩しておこう」
それだけ言って、さっさと木陰で休み始めた。
サトルがそう言うなら確かだろう。
ポチと一緒にサトルの隣で横になる。
ヒトミさんも下りてきて、僕らはそこで休むことにした。
*
「桃太郎、おきて」
ヒトミさんの声で目を覚ますと、あたりはすっかり夜だった。
そばにいないとなると、すでにポチとサトルは起きているのだろう。
「桃太郎、あっちよ」
僕が探しているのが分かったのか、ヒトミさんが翼で指し示している。
今夜は月がないからわからないけど、目を凝らせば、星の明かりで二つの影が確かにあった。
「ほら、はやく」
そう言ってヒトミさんは歩き出した僕の肩にのっていた。
月のない夜は、飛ぶのには不向きなのだろう。
歩きはじめてすぐに、僕はその違和感を覚えていた。