小説

『思い出のきびだんご』あきのななぐさ(『桃太郎』)

 その瞳はやっぱり僕をじっと見ている。

「ふふ。よろしく、桃太郎。素敵な名前をありがとう」
 そのまま翼を広げると、優雅にまた空に舞い上がっていた。

「ふん。好きにしろと言ったのだ、好きにするがよかろう」
 サトルは少し前に出ながら話しかけてきた。

 やっぱり、名前で呼ぶと、お互いの距離が少し縮まった気がする。
 まだ十分わかりあえたわけじゃない。
 そもそも、全てをわかるはずがない。

 全てを知るなんて、不可能なことだ。

――でも、一緒にいる時間は、お互いのことを分かり合うことはできるんじゃないかな?

 仲間でなくても、歩いては行ける。
 でも、目的地が同じなら、たぶん仲間になった方が楽しいはず。
 そんな僕の想いを感じてくれたのか、僕を見るポチがにっこりと笑顔を見せていた。

 


 
 それからしばらく歩いていくと、鬼ヶ島を目の前にする浜辺にたどり着いた。
 ここからは、どうしても船がいる。
 でも、周囲を探しても船など一艘も見当たらなかった。

「ヒトミさん、どこかに船はない?」
 空を飛ぶヒトミさんに聞いてみた。

 確かに頭の中で話が通じるのは便利だ。でも、なんだかちょっと物足りない。

「無いわね。あと、鬼ヶ島にも無いわよ」
 そう言えば、ヒトミさんさっきまでいなかったと思ったら、もうそんなところまで見てきてくれたんだ。

「ありがとう、ヒトミさん」
 先についたヒトミさんは、困る僕のために偵察までしてくれた。

 感謝した時には、ちゃんと伝える。
 それはお爺さんとお婆さんから教えられたこと。

 でも、どうしよう……。
 途方に暮れる僕をよそに、波打ち際を見ていたサトルが空を見ながら話しかけてきた。

「この分だと、夜まで待てばよい。じきにわかる。それまで休憩しておこう」
 それだけ言って、さっさと木陰で休み始めた。

 サトルがそう言うなら確かだろう。
 ポチと一緒にサトルの隣で横になる。
 ヒトミさんも下りてきて、僕らはそこで休むことにした。



「桃太郎、おきて」
 ヒトミさんの声で目を覚ますと、あたりはすっかり夜だった。

 そばにいないとなると、すでにポチとサトルは起きているのだろう。

「桃太郎、あっちよ」
 僕が探しているのが分かったのか、ヒトミさんが翼で指し示している。

 今夜は月がないからわからないけど、目を凝らせば、星の明かりで二つの影が確かにあった。

「ほら、はやく」
 そう言ってヒトミさんは歩き出した僕の肩にのっていた。
 月のない夜は、飛ぶのには不向きなのだろう。

 歩きはじめてすぐに、僕はその違和感を覚えていた。

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