小説

『思い出のきびだんご』あきのななぐさ(『桃太郎』)

 僕のために……。

「では、桃太郎。我らも共に行くとしよう。お主の答えを我らも聞きたい」
「よろしくね。桃太郎」

 キジはそれだけ言って、空へ飛び立っていた。
 じっと見つめるあの視線は、なんだか見透かされた気分になる。

 でも、不思議と嫌な気分じゃない。

 ともかく、鬼ヶ島だ。
 ゆっくりと歩き出すと、左をポチが歩き、右にはサルが歩いていた。

「そう言えば、やっぱり名前がないと不便だよ。サルとキジでしか呼べないよ」
 サルの方に顔を向けて話しかけてみても、サルは僕を見ようともしなかった。

「それだとなんだかよそよそしいよ」

 キジはともかく、サルはこうして隣を歩いている。でも、名前があるともっと近くに感じられる。

「それは、あくまで人の見方ぞ。さっきも言った通り、我らは行動を共にするが、それはお主の答えを聞くためだ。キジさんにしても、見守るだけだ。そんな我らに名など不要。どうしても呼びたければ、お主の好きにするがいい」
 そんなサルの言い方は、正直よくわからなかった。

「桃太郎、あまり深く考えなくてもいい。サルは単に仲間にならない、一緒にいるだけだと言っている。ただ、君が望むなら、名前を付けてあげるといい」
 ポチは前を見ながら、話しかけてきた。

 サルとキジのことはよくわからない。

 向こうはただ一緒にいるだけだと言っている。
 でも、好きにしてもいいと言っていた。

 最初はポチのことだって知らなかった。
 でも、ポチと話していて、いろんな事を知った。

 正直なおじいさんとおばあさんの話。
 意地悪なおじいさんの話。

 そのたびに、なんだかポチのことが身近に感じられた。
 ポチのことをもっと知りたいと思った。
 僕が今知っているポチには、まだまだ知らないことがある。
 そのすべてがポチであり、その入り口がポチという名前を知ったことだ。

 仲間になるから必要というわけじゃない。
 ただ、知らなければ仲間にすらなれない。

 だから、名前で呼ぼう。

 でも、なんて言ったらいいのか……。
 サルは、なんとなくいろんなことを知っている気がする。
 一種の悟りに近い何か……。

 キジさんは何でも見透かしたような瞳をしている……。

 安易かもしれない。でも、自分の感覚に従おう。

「じゃあ、お言葉にあまえて、今度からサルのことはサトル。キジさんのことはヒトミさんと呼ばせてもらうね。よろしく、サトル。よろしく、ヒトミさん」
 僕の言葉に一瞬驚いたような顔を見せたサトル。

 そしてヒトミさんは空から降りてポチの背に乗っていた。

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