ようやく一本松の丘の頂についた時、頭の上から声がした。
「あなたが桃太郎さんでいいのかしら」
「どう見てもそうじゃが、一応聞いておくとしよう。のう、桃太郎」
声と同時に姿を現すキジとサル。
キジは優雅に、サルは華麗に僕たちの前に降り立った。
そんな姿を、ポチはあきれた目で見つめていた。
「君たち! そんな登場したら、桃太郎が驚くだろ? 僕らが話せること知らなかったらどうするんだ」
ポチは一歩前に出ると、二人の行動を非難していた。
「愚問じゃな。キジさんがお主らの様子を見ておる。それに、お主がおる時点で、我らの世界の秘密は、すでに知られておるのじゃろう?」
悟り顔のサルが、ポチに語りかけていた。
キジはだまって、僕を見ている。
「そうだね、サル君。僕はポチ。こっちは桃太郎だよ。ところで、一応聞くけど、何の用だい?」
サルとしばらく睨み合ったポチは、ため息交じりに僕のことまで紹介していた。
「それこそ愚問だよ、ポチ。でも、礼を言う。先に名乗ってくれて。もとより我らは人と交わって生きておらぬ。ゆえに、名を持たぬ。しかし、それも人間にとって必要なだけで、我らは必要とせぬものよ。それは、キジさんとて同じこと」
サルはキジを一瞥して、ポチにそう告げていた。
そして、じっと僕を見続けている。
――なんだか観察されているようだな。
「ところで、桃太郎。お主、鬼ヶ島に行って何とする?」
なんだろうこの感じ……。
不思議な感覚に、少し変な気分になった。
でも、質問されたことには答えよう。
「大切なものを取り返す。それは、正当な持ち主が持つものだ」
そう、取り戻すんだ。
お爺さんとお婆さんから奪った大切なものを。
「それが本当にその人にとって必要なものか? お主が必要なのではないのか?」
――不思議なことを聞いてくるな……。
必要かどうかなんてわからない。でも、奪われてから見ていないんだ。
お爺さんとお婆さんの笑顔を。
「僕たちは、家族だから」
サルに聞かれたことの答えとしては不十分な言葉だったけど、サルは何故か頷いていた。
「ふむ。まあよかろう。我らも今の状態を良いとは思わん。じゃが、考えておくことだ。本当にそれが必要なのかどうか。何故? 誰が? それを必要としているのか……」
そう言うサルの言葉と共に、不思議な感覚は消えていた。
「そうするよ」
なんだか、一気に疲れた気分。
ふと、前を見ると、ポチが心配そうに僕の顔を見上げていた。
「大丈夫だよ」
笑顔でそう言ったものの、僕は考えていた。
――たしかに、本当にお爺さんとお婆さんにとって必要なものなのか?
単に、僕が取り戻したいだけなのだろうか?