小説

『思い出のきびだんご』あきのななぐさ(『桃太郎』)

「君に話しかけたのは、ほかでもない。僕も鬼ヶ島に行く。理由は君と同じさ。だから一緒に行こうと思ってね」
 そう言ってさし出すポチの手を、僕はゆっくりとつかんでいた。

――なるほど、ポチの正直爺さんと婆さんも……。
 いいようのない寂しさがこみ上げてきた。きっとポチも僕の気持ちを分かってくれる。

「うん。じゃあ、よろしく」
 ようやくこれで、仲間が増えた。

 理由は同じ、大切なものを取り返すため。

 そう、僕らはすでに仲間だった。

「じゃあ、行こう! 鬼ヶ島へ」
 こうして僕らは歩いていく。一人と一匹の旅が始まった。

「ああ、そうだ……。ポチ、一緒に来てくれるのなら、お礼がしたいんだけど……」
 腰の袋に手を当てながら、歩いているポチに尋ねてみた。

 何が入っているかわからないけど、食べ物には違いない。
 だけど、袋をしばらく見ていたポチは、少し残念そうな感じだった。

「僕らは仲間だよ、桃太郎。君と歩むのは、僕の為だからね。感謝はもらうけど、お礼はいらない。それに、それは大事にとっておいた方がいい」
 前を見ながら話しかけてくるポチの言葉は、僕の心に突き刺さった。

 ここでお礼をする気持ちは、ポチへの感謝からだった。
 でも、仲間にその行為は失礼だ。

 僕達はすでに仲間だ。
 そんなポチに感謝はしても、お礼を渡すというのは、ポチの心を台無しにする行為だろう。

「ごめんなさい……。僕が間違っていたよ。そして、仲間になってくれてありがとう」
 立ち止まり、頭を下げた僕の方を、ポチはしっかり見てくれていた。

 間違ったなら、謝る。
 感謝は、言葉で伝える。
 それが、お爺さんとお婆さんから教わった大切な事。

「いいさ。でも、僕らは仲間になった。たぶん、喜びも悲しみも分かち合う事が出来るよ」
 立ち止まって、僕を見るポチの顔は、なんだかうれしそうだった。
 そんな顔を見ると、僕もなんだかうれしくなった。

 なるほど、そういうものか。
 一緒にいるから感じられる。
 お爺さんとお婆さんとも、そうやって過ごしてきたんだった。

 それを一方的に奪った鬼。

――絶対に許すことなんてできない。

「よし、行こう」
 再び二人で歩き出す。
 なんだか、前よりポチが近くに感じられた。



 ポチと色んな事を話していると、いつの間にか、一本松の丘が見えてきた。

 あれをこえれば、鬼ヶ島も近いらしい。
 はやる気持ちは、自然と歩みを急がせていた。

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