「君に話しかけたのは、ほかでもない。僕も鬼ヶ島に行く。理由は君と同じさ。だから一緒に行こうと思ってね」
そう言ってさし出すポチの手を、僕はゆっくりとつかんでいた。
――なるほど、ポチの正直爺さんと婆さんも……。
いいようのない寂しさがこみ上げてきた。きっとポチも僕の気持ちを分かってくれる。
「うん。じゃあ、よろしく」
ようやくこれで、仲間が増えた。
理由は同じ、大切なものを取り返すため。
そう、僕らはすでに仲間だった。
「じゃあ、行こう! 鬼ヶ島へ」
こうして僕らは歩いていく。一人と一匹の旅が始まった。
「ああ、そうだ……。ポチ、一緒に来てくれるのなら、お礼がしたいんだけど……」
腰の袋に手を当てながら、歩いているポチに尋ねてみた。
何が入っているかわからないけど、食べ物には違いない。
だけど、袋をしばらく見ていたポチは、少し残念そうな感じだった。
「僕らは仲間だよ、桃太郎。君と歩むのは、僕の為だからね。感謝はもらうけど、お礼はいらない。それに、それは大事にとっておいた方がいい」
前を見ながら話しかけてくるポチの言葉は、僕の心に突き刺さった。
ここでお礼をする気持ちは、ポチへの感謝からだった。
でも、仲間にその行為は失礼だ。
僕達はすでに仲間だ。
そんなポチに感謝はしても、お礼を渡すというのは、ポチの心を台無しにする行為だろう。
「ごめんなさい……。僕が間違っていたよ。そして、仲間になってくれてありがとう」
立ち止まり、頭を下げた僕の方を、ポチはしっかり見てくれていた。
間違ったなら、謝る。
感謝は、言葉で伝える。
それが、お爺さんとお婆さんから教わった大切な事。
「いいさ。でも、僕らは仲間になった。たぶん、喜びも悲しみも分かち合う事が出来るよ」
立ち止まって、僕を見るポチの顔は、なんだかうれしそうだった。
そんな顔を見ると、僕もなんだかうれしくなった。
なるほど、そういうものか。
一緒にいるから感じられる。
お爺さんとお婆さんとも、そうやって過ごしてきたんだった。
それを一方的に奪った鬼。
――絶対に許すことなんてできない。
「よし、行こう」
再び二人で歩き出す。
なんだか、前よりポチが近くに感じられた。
*
ポチと色んな事を話していると、いつの間にか、一本松の丘が見えてきた。
あれをこえれば、鬼ヶ島も近いらしい。
はやる気持ちは、自然と歩みを急がせていた。