でも、僕は前に進まなくてはいけない。
お爺さんとお婆さんと、再び笑って暮らすためにも……。
*
旅は思ったより順調だった。
鬼ヶ島をめざし、ただ歩いていく。
途中いくつかの村に立ち寄ったが、どこも僕の住んでいた村と同じようなものだった。
「やっぱり、年寄りしかいない……」
どの村にも、気力を失った年寄りしかいなかった。
こんな感じだと、誰も仲間になってくれそうにない。
というか、この人達もたぶん被害者だ。
そうなると、無理は言えない。
「とりあえず、進もう」
僕はひとりで歩いていく。
鬼ヶ島を目指して、どんどん歩いて行く。
*
しばらくすると、向こうから犬がやってきた。
「やあ、君があの桃太郎だね」
その瞬間、僕の時間は止まっていた。
――いやいや、そんなはずないだろう。
でも、周囲を見渡してみても、そこに犬がいるだけだった。
「どうした? 一応、丁寧に尋ねたつもりだけど?」
当たり前のように話してくる。そんな僕の心を見抜いたように、また犬が話し始めた。
「ああ、これは念話と言うんだよ。今、君の頭に直接話しかけている。一応、秘密にしておいてくれると助かる。普段は決してしないからね」
なるほど、どおりで口が動いていないわけだ……。これで謎は一つ解けた。
だけど、まだ謎は残っている。
「その、僕のことを桃太郎だとわかる、あなたは一体?」
とりあえず、僕のことを知って声をかけてきたのは確かなことだ。
しかも、『君があの桃太郎』と言ってきたあたり、何だか僕の知らないと事で有名になっている?
「まあ、君のことは動物たちの中で噂になっているからね。取り返しに行くんだろう? 鬼ヶ島に」
犬はじっと僕の目を見て話してくる。
なるほど、知らない間に噂になっていたのか……。
でも、何故? それと、まだ名前を聞いていなかった。
「そうだよ。あと、君の名前と僕を知っているわけを教えてくれるとうれしいな」
しゃがみこんで、お願いをする。
人にものを頼むのに、見下ろしたままじゃ申し訳ない。
犬だけど……。
「ああ、礼儀正しいんだね、桃太郎。僕の名前はポチ。先に名乗らなかった事を詫びるよ。僕は正直なお爺さんとお婆さんと暮らしている」
座るポチに続いて、僕もその場で腰かける。