振り返ると、やはり雑居ビルの壁。そして隣には時間貸しの駐車場。私はスーツを着て、ネクタイをしている。腕時計見ると午前９時過ぎ。唇に触れると、指に赤い色がついた。
ゆっくりと歩き出す。私はどこへ行こうとしているのか。会社に決まってるじゃないか。また今日も、黒田課長のお小言を甘んじて受けるのだ。今日までも、これからも私はそうやって生きていくのだ。人生は長いようで短い。10年などあっという間だ。だからこそ、一日一日を精一杯後悔のないようにしなければ。 ……でも、時にはそんなレールから外れ、自分を見つめ直すことがあってもいい。楽しさに全てを忘れて没頭してもいいのだ。好きなことに夢中になれば、時は一瞬で過ぎる。その積み重ねで、人生がまたたく間に終わったとしても、後悔などあるはずがない。
上着のポケットに手を入れる。やはりそれはあった。自ずと顔がほころぶ。
取り出して目の前に掲げる。私は赤いリボンに手をかけ、結び目をほどいた。