里に多く見られるのは、美しい鳥人の姿に似たエルフ、美しい蜥蜴人の姿に似たエルフ、美しい蛇人の姿に似たエルフ。彼らはそれぞれ多種多様な亜人種から見て警戒心を与えず、好感を抱かせる姿をして亜人種の前に現れるのだ。
つまり彼らの美貌は、他種に対する色仕掛けのために獲得されたのである。
とはいえ、トレヴァーはまるで人種の坩堝のような里の光景を構成するすべてのエルフの容姿に対して最大級の賛辞を送っているのではあるが。
稀に、好奇心から里を出る役割を担う個体も居るものの、集落に残る雌が繁殖を担う以上、このような多種の姿へ変態を果たし交易を担うのは、基本的に性競争に敗れ変態の遅れた個体である。
皮肉な話、歴史に名を遺した傾国傾城の美女達のことごとくが、行き遅れの年増エルフであったということである。
とはいえ無論、彼女らの行動は役立たずの産まず女として集落を放逐されてのものではない。他の昆虫社会において生殖能力を持たない雌がそうであるように、エルフ社会において彼女らの役割は、働き蜂のそれなのである。
最後に、エルフには少女や大人の男以上にまったく見かけることのできない存在がいる。
幼児である。
エルフの新生児は神聖な存在として集落のもっとも奥深い場所に隠されているとされ、人族はもとより、より交流の深い亜人種たちもまたその姿についての情報を一切持っていない。
『デクテヴェア大森林のエルフたち』は、エルフの里で四年目の冬に命を落としたトレヴァーの遺品として、 いくつかの亜人種の手を渡り彼の郷里に届けられた。
秘すればこその花というものか、森の美男美女たちの生まれたままの姿を我々が知ることはできない。後の歴史を通じても最もエルフに近づいた人族であるトレヴァーですら、ついに目にすることは叶わなかったようである。
もっとも、彼の死因と命日の微かな瑕疵、突発的であったはずの死と著書の完成時期の奇妙な符合。
エルフの語った死が事実であるとすればではあるが。