「ごめんなさい。でも、私、あなたを連れて行かないと泡にされちゃうの」
彼女のためだったら泡になっても構わないかもしれないと思った時、ようやく僕にも暗い海の中でひっそりと僕らを見つめている何万ものサカナたちの息遣いが聞こえてきた。
彼女は僕の頬を優しく撫でて手を離す。小さな僕はようやく楽に呼吸ができるようになったことにホッとした。そして、深い深い海の底で僕はいつの間にか自由に泳ぐことができるようになっていた。彼女は鮮やかな尾びれで月光を弾いて心地よさそうに泳ぎだす。月明かりを浴びた色とりどりのサカナたちが僕らを囲む。濃い青の中で彼女の真っ白な肌は鈍く輝き、今まで見たどんな彼女の姿よりも美しかった。