小説

『ぼくたちの自由』大知牧(『八尾比丘尼伝説』)

「……非人道的だな」
 俺がキリスト教信者なら、十字でも切っているところだ。いや、それでは償いきれない。
「大体、何でおっさんなの?」
「知らないよ」
「いいの?これ?」
「ナイわ……夢に出る」
「不老不死のためだって、頑張ろうよ」
「あー……教えるんじゃなかった、八百比丘尼」
「大丈夫だって、チャレンジ、チャレンジ」
 岡島が両手を合わせた。いただきますの意味と、死者を弔う意味と、どちらだろう。
「いただきまーす」
 俺と由良もしぶしぶ後に続く。
「……いただきまーす」

 テントの幕はぴたりと下ろされ、まるで外でのやましい出来事を遮断するみたいだ。
 俺達は布団の中で、慎重に互いの顔色を伺い合った。
「……ねえ、どう? 何か変わった?」
「んー……」
 岡島が自らの股間を覗く。
「ヤバイ、俺〝でっかく〟なってるかも」
「それは人魚関係ないでしょ」
「いや、絶対そうだって」
「……あ、でも俺も、なんか変な気持ちになってきた」
 由良がうっとりと宙を見る。
 俺と岡島で振り返ると、由良が指をくわえて熱っぽい視線を送っている。
 俺と岡島はささ……とテントの隅に引いた。
「まさかまさか」
「ナイナイナイ」
 逃げるようにテントの外に出ると、いつの間にか空には満天の星が輝いていた。
 俺達は、さっきのノリはさっきのノリとして、地面に三人、ごろりと寝転がる。
 若さってそんなもんだ。
「……ねー、もし本当に、永遠に生きられるとしたらさ」
 由良が切り出す。
「どうするかって?」
「そう。どうする?」
「世界制服とか」

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