そう言われて、さくらはやっと、自分がここへ来た目的を思い出した。そう、いつかばあちゃんが言っていた。電車にぶつかっていく人の話。そういうことがあるっていうのを、テレビっていうやつが、なんでか、ときどきばちゃんに知らせる。それを知る度にばあちゃんは急に元気がなくなってしまう。だから、ばあちゃんからときどき笑顔を消してしまうテレビが、さくらは嫌いだった。
「ばあちゃんはいっつも言ってた。「あんなものに当たったら、一瞬で全部なくなっちゃうわ」って」
「ご主人は、亡くなったんだね?」
「もう、会えない。そう・・・急に帰ってこなくなった。それで、たまに家に来る、ばあちゃんにちょっと似た人が来て、言ったんだよ。「おばあちゃん、もう帰ってこないの。ごめんね」って。それから、その人は片付けをしたりして、おいらの食べるものを準備して、でも一回で終わりじゃなくて、しょっちゅう来て、最近は、小さくてうるさいのも来るようになって、それが、やたらと追いかけまわしてくるんだ。おいらをどこかへ連れて行こうとしたりしてさ。それでわかったんだよ。ばあちゃんにはもう二度と会えないってことと、もうすぐ、このうるさいのがいるところへ行かなくちゃいけないんだってこと。でも、嫌だったから、全部なくなっちゃおうって思ったんだ。それで夜になって家を出て、ここで電車を待ってて、そうだ、待ってたら、遠くからピカピカに光りながら電車が近づいてきて、おいら、その光の中に、何が何でも飛び込まなくちゃって・・・・眩しくて何にも見えなかったけど、確か、飛び込んだ、と、思うんだけど・・・・・」
そこまで話すと、さくらは一気に寂しさを思い出した。どれだけ待っても帰って来なかったばあちゃん。知らない間に、知らない場所で、知らないところへ行ってしまった。何もわからないのに、さくらただ、もうばあちゃんが帰っては来ないということばかりを実感していった。ばあちゃんの家族は、しばらくはさくらをその家に置いておいた方がいいと考えた。無理に連れて帰らず、家の整理をしているうちに、自分たちになつかせようと思っていたのだ。
「どうして、他の場所へ行くのが嫌なんだい?彼らはきっと君にちゃんと食べ物を与えるし、温かい場所も用意してくれるよ」
少し大きい猫が言った。
「そうなの?あんな、しっぽを無理やり引っ張ったりするようなやつが?」
「子供の方じゃなく、大人がちゃんと面倒を見てくれるさ」
「でも、やっぱりあれがいることろなんか嫌だよ」
「だからといって、死ななくてもよかったじゃないか?」
「でも、ばあちゃんシンデイルんだよね?だから会えなくなったんでしょう?おいら、同じになったから、ばあちゃんに会える?」
「後を追ったり、一緒に死んだからといって、同じ場所へ行ける訳じゃないさ」
「そうなの?」
「生がそれぞれなんだから、死だってそれぞれさ」
少し大きい猫の言っていることは難しかった。でも、さくらはなんとか、わからないような、わかったような気持ちになれた。
「どうして、そんなこと知ってるの?」