彼があまりに優しげな場所から、あまりに優しげに呼ぶので、ヨハンはふらりと彼の方に足を踏みだした。目の前に立つと、樹は思っていたよりもずっと大きく、青年は思っていたよりもずっと美しかった。
――よくきたね、ヨハン
その場所は例えようもないほどに心地よかった。春の日のようにうららかな木漏れ日が差し、足元の草はクッションみたいだ。彼が手を差し出した。ヨハンはその手を取りたいと思った。
「どうして……僕の名前を?」
青年は再び輝くように微笑むと、腕を広げ、その膝の上に座るようにヨハンを促した。ヨハンは何の不安もなく、まるで母の膝に飛び込むように、彼の膝の上に座った。青年の身体は暖かで、その豊かな服からは草木と太陽の香りがした。
――君のことはずっと前から知っている
「あなたは誰? なぜこんな森の中にいるの?」
――私はエール。昔からここに住んでいる
「エール……」
青年は女性の手のように白く滑らかな美しい手でヨハンの髪を撫でた。ヨハンは自分がまどろみに沈んでいくのを感じた。
――眠いのかい、ヨハン?
「うん」
――それなら眠るといい
「うん……」
――ヨハン、君は……
それ以上は聞き取れなかった。ヨハンは甘い眠りの中に落ちていった。
「――、――!」
遠くで呼ぶ声がする。ヨハンは目を覚ました。彼は暗い森の中に横たわっていた。ひどく寒くて、全身が震えていた。
「かあさん……?」
森の遠くから聞こえているのは母親の声だ。ヨハンは立ちあがろうとしたが、うまく行かなかった。身体に力が入らない。
「かあ、さ……かあさん……」
ヨハンは答えようとした。だが、声がかすれている。喉が痛くて、口の中が乾いている。僕はどうしたんだろう……どうしてここに……。熱っぽくて頭が割れるように痛い。全身がやすりにかけられているように、ひりひりする。力が入らない。ひどい風邪を引いているみたいだ。もしこのまま母さんが見つけてくれなかったら……
「かあさん……かあさん……!」
ヨハンは声を張り上げた。
「――ヨハン?」
遠くの声が答えた。乾いた草を踏みわける足音が近づいてくる。乾いた――そう。だって今は秋だから。青々と葉を茂らす樹など、暖かい木漏れ日などあるはずもないから。肌寒い風が通りすぎていく。