小説

『雨の子供と午後3時』もりまりこ【「20」にまつわる物語】

「覚えられないよ。なにそれ?」
「ここにいろいろな国の午後3時のことが綴られてるのみつけたの」
 嵐はどうでもいいんだけどそんなことってことを思いつつもそれは表情に表さないようにして答える。
「しいていえばね、最期のコロンビアの人。雨降ってる時の。こっちもさっきまで降ってたな」
「うん、今は遠雷が聞こえるね」
 そうやって時間をずるずると引き延ばしながら、雫は思い腰をあげるかどうか決めかねていた。なにかきっかけが欲しかった。
「嵐、あのねいまその窓に雨粒とかついてる?」
「えっ? あまつぶ? ついてるよいくつか」
「じゃ、数えて」
「なんで?」
「なんででも、お願い」
「・・・。」
「もう、シカト?」
「黙って。数えてるんだから。えっと25」
「おっけー。じゃ20になったら教えて。あたし立ち上がって決行してくるから」
「なんで? 20?」
「いいから数えてよ」
「ねえ、雫。そんなに肩ひじはらないでさ。ティキィイージーでさ、やってゆこうよ」
「ヘンな発音の英語で説教するのやめて」
 って雫が言った後ふたり離れたあっちとこっちで笑い転げた。
「ほんと、ばか」
「すみません。全部聞こえてるんですけどぉ。雫さん。ぐずぐずしないでちゃっちゃとさ、そのプラスチックの棒みたいのにかければいいんだろう。ぴって。そしたらとりあえず答えが出てくる仕組みなんだろうそれ」
「嵐ってほんと無神経な男。そんなさ、ちゃっちゃとかぴっとかって犬が電信柱におしっこかけてるみたいに言わないで。ほんと」
「シンジランナイでしょ。雫の台詞は全部覚えてしまいましたよこの5年でね」

 雫は妊娠判定薬をやっとパッケージから取り出してみる気になっていた。嵐といろいろばかな話をしているうちに、こころが決まりそうになっていたのだ。

1 2 3 4