「いーち、にーぃ、さーん、しーぃ、ごーぉ」
そうそう、その調子だ。
「ろーく、しーち、はーち、きゅーう、じゅーう」
ここまでは安心して聞いていられる。ここからが難しいのだ。
「じゅーいち、じゅーに、じゅーさん」
そこで彼女は立ち止まってしまう。下唇が少しだけ突き出ている。スムーズに言えなくて悔しいのだろう。
「じゅーし、じゅーご、じゅーろく」
そうだ、いいぞ。ときどき言い忘れてしまう「十五」もしっかり言えた。表情もちょっと得意げだ。
「じゅーしち、じゅーはち」
もう一息だ。一ケタの数字に比べると少し時間がかかっているけど、ここまでは順調だ。
「じゅーきゅ」
ここで私は身構えてしまう。こちらの緊張感が伝わってしまうのか、彼女もちょっとだけ不安そうな顔になる。
「……」
なかなか次の言葉が出てこない。がんばれ、がんばれ。
「……じゅーじゅ!」
満足そうに、彼女はあどけない表情でころころと笑っている。何度丁寧に教えても、彼女は「二十」が言えないのだ。
「九」の次が「十」なのだから、「十九」の次は「十十」なのだろう。彼女にとっては「二十」という言葉のほうが、よっぽど不自然に感じるらしい。