「だから、明日、二人でちゃんとライトアップここから見ませんか」
本気だろうか、と彼女を見ると、こちらを向かずにカクテルに唇をつけたままだった。バーの照明が彼女の唇の端がちらっと動くのを照らした。
「それもいいかもしれないなぁ」
僕言うと、彼女は、いいと思いますよ、とやっと笑った。
「今日はごちそうになります。それで先に帰ります」
そう言う彼女はカクテルの残りを飲んで席を立った。
「え、あ、そうか。うん、わかった」
「ゆっくり、今日の景色を堪能してください。明日はきっと全然違うと思うから」
「そうか、じゃあそうすることにするよ」
「じゃあ明日、また20時に、ここで。仕事してから来てくださいね。私は待ってますから」
そんなに待たせないよ、と思いながら、わかった、と答えると、彼女はあたたかな笑みを浮かべた。座って振り向いたまま手を挙げて、また、と彼女を見送った。
ぬるくなったグラスをただ揺らしながら外を見ると、もうゆりかたちの姿はなく、代わりにさっきよりも淡く色づいた花たちが見えた。