小説

『お皿は何枚』三谷銀屋(『番町皿屋敷』)

 主馬がお菊の言葉を遮った。
「皿の枚数は九枚であったな」
「は?」
「この桐の箱には九枚の皿がきっちり揃っておる」
「……」
「皿の数は初めから九枚であった。それでよいな?」
 そう言うと主馬はくるりと振り返ってお菊の方を見た。
 主馬の顔はなぜかひどく青ざめていた。

 お菊には訳がわからない。狐につままれた気分のまま女中部屋に戻った。
「お皿を割らなかったという嘘が本当に……いいえ、お皿を割ったっていう本当が嘘になった、ということ?」
 お菊は呟いて、帯に挟んであった鷽の人形を取り出して眺める。
「なんだかよく分からないけど……助けてくれたみたいね。ありがとう」
 お菊は鷽の頭を指先でそっと撫でた。
 チチチ、と涼やかな小鳥の鳴き声がお菊の耳元でかすかに響いた気がした。

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