小説

『桜の樹の下の下には』柘榴木昴(『桜の樹の下には』)

 僕はずっと桜花の下に埋まっていた。今の話じゃ桜花が伊吹姉ちゃんと約束して二人で僕を殺して埋めんだな。ひどいなあ。僕、まだ死にたくなかったよ。でも確かに、いくら宝物を埋めるために何度も掘り返したとはいえ、桜花じゃ僕を殺してもこんなところに運んで埋めるなんてできないよなあ。そうか、僕を殺したのは姉ちゃんだったんだ。僕はてっきり人さらいのお母さんが、知らない子供を誘拐して痛ぶってるところを見ちゃったから僕も殺されたのかと思ってた。お母さん、疑ってごめん。
 ねえ桜花。いま、僕たち掘り出されてるの?
 そういえば宝物、どうしたんだろう。この桜の下に埋めた虫眼鏡。樹希兄が中学校とのき考古学研究会で使っていた、年代物の虫眼鏡。僕が中学にあがったら使っていいよって、春休みの最後の日に宝箱に入れて樹希兄と一緒に埋めたんだ。だから殺されて埋められた僕の近くにありそうなもんだけど……誰か持って行ったのかな。
 え? 桜花が持って行ったの? 僕を埋めるときに見つけて樹希兄のだってわかったから盗んで捨てようとしたのか。そんなに嫌いなの? 
 でもそのまま桜花も殺されちゃったもんね。お母さん殺しに僕の家に行って。じゃあまだ僕の部屋にあるのか。
 木の根を伝わって声が聞こえてくる。
 樹希兄と……伊吹姉ちゃんだ。やあ、懐かしいなあ。

 ――桜花が……10年……あの日……火事。
 ――あれから……何も……変わっていない。

 火事になった? 家が?
 ははあ、火事をおこしてお母さんと僕を殺したのかな。って、僕も焼け死んだ?
 いや、いや、いや。僕はその前の日に殺されて、こうして埋められてたじゃないか。お姉ちゃんが始業式の後早く帰ってきて桜花と一緒に遊んで……僕が殺されて。
 そっか、じゃあお母さんと一緒にいたのはお母さんがさらってきた知らない子供なんだね。子どもをお母さんが殺して、お母さんを桜花が殺して、その知らない子どもは火事の後で伊吹姉ちゃんが僕だということにしてたんだ。
 でもそうだね、樹希兄は火事で死んだのが僕とお母さんだとおもってるから、なら今握っている小さい子の骨は、必然的に桜花かもって思うよね。埋めたはずの虫眼鏡が火事で焼けた僕の部屋にあるんだもの、何かつながりがあるかもって考えるよね。でも虫眼鏡のこと今頃思い出したのかあ。のんきだなあ。いや、それに気づくとここを掘り返して桜花の遺体を発見することになるから。
 樹希兄。わざと気付かないようにしてたね。

 ……伊吹……桜花を……のか……
  ……私が……のは……知らない子供……

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