小説

『桜の樹の下の下には』柘榴木昴(『桜の樹の下には』)

 そういえば、お母さんは誘拐して記憶が無くなるまで殴りつけていたけど殺そうとはしなかったよなあ。いや、目当ての子どもがみつかるまでは殺さないようにしてたのかもね。もしかして、伊吹姉ちゃんとお父さんの子供って僕だけじゃないのかもな。その子を殺して僕もいつか殺すつもりだったのかな。なんだ結局僕は殺されちゃうのか。
 ねえ、姉ちゃんはお母さんのこと人さらいだって言ってたけど、姉ちゃんが僕を産んで、相手がお父さんだってわかってからお母さん誘拐始めたんだよ。わかってる?
 いつも二人は喧嘩してたよね。お母さんが僕や、知らない子供を連れてきては殴り倒して、そのたびにお姉ちゃんはお母さんを殴って止めてた。その間に僕が子どもの息の根を止めてたけど。ふふ。
 夜中に何度も子供達をこっそり埋めに来たっけね。この廃寺に。いつかお母さんを殺すって言ってたけど、桜花と組むとは考えたね。
 僕を殺した理由が分かったよ。伊吹姉ちゃん、僕が邪魔だったんだな。そして姉ちゃんが子供を産んだことを知っているのはあと一人だけだ。だから多分、もうお父さんも殺してるんだろう?
 「私の……な人……だから……して」
 苦しくて悲しい発音が伝わってくる。でも心臓の音はたかぶっている。姉ちゃんは嘘をつくのが下手だから心配だなあ。いつも目を伏せて髪を触るんだ。多分、樹希兄は気付いてるよ。姉ちゃんの本当の狙いに。むしろ望んでいるよ。だから、あえておめでとうって言わせてもらうね。

 これで樹希兄と二人きりになれたね。 
 そうやって重ねた罪に手を重ねて、罪悪感を運命にすり替えて、気付かないふりする事すら忘れて幸せになってよ。二人で。死体を綺麗な桜で上書きしてさ。

 
 桜吹雪が舞っていた。
 男と女の姿は消えていた。
 桜の樹の下には死体が埋まっている。その下にも、ひょっとしたら、その下にも。

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