小説

『桜の樹の下の下には』柘榴木昴(『桜の樹の下には』)

 10年? もうそんなにたつんだっけ。この声、伊吹お姉ちゃんもいるのかな。わたしは確か、お兄ちゃんが高校生になった次の日に殺されたんじゃなかったっけ、伊吹お姉ちゃんに殴られて、生き埋めにされたんじゃないっけ。それでそうだ。お願いごと、聞いてもらったんだ。そっか、もう10年かあ。お姉ちゃんたちが引っ越して来たのが確か、お姉ちゃんが中学生になった時だから私が殺されてからの方がずっとながくなっちゃったね。お礼言えなかったけど、ありがとう、約束守ってくれて。
 あの日の約束。わたしと、お姉ちゃんのお願いをお互いに叶えるという約束。
 わたしは気持ち悪いお兄ちゃんから離れて大好きな春雪と一緒になりたい。
 伊吹お姉ちゃんは大嫌いなお母さんを殺してほしい。
 それで、私がお姉ちゃんところのおばさんを殺した。
 お姉ちゃんは私を殺して春雪と一緒にしてくれた。もちろんお兄ちゃんからも離れる事が出来た。あれ? でも今、こうして骨になったのにお兄ちゃんにつままれている。
 昔からお兄ちゃんは私の嫌なところをつまんだり、触ったりした。お姉ちゃん、約束違うじゃないの。骨まで触られるのなんて嫌だなあ、やっぱり殺せばよかった。正直、殺すのも気持ち悪いけど。お兄ちゃんの血とか神経とか臓物なんて絶対、手袋してても触りたくない。伊吹お姉ちゃんはどうしてこんなお兄ちゃんのことが好きなんだろう。春雪にならいっぱい触られたり殺されりしてもいいよ。どきどきするもん。春雪はほかの男の子とはちがう。すごい違う。おばさんは最期に「お願いだから、この子だけは私に殺させて」って叫んでたけど。でもその子供もおばさんも、二人とも死んでいく時わたしはどきどきしなかったから、やっぱり春雪じゃないとダメ。
 あーあ、早く土の中に返してくれないかな。
 「……伊吹……桜花を……のか……」
  「……私が……のは……知らない子供……」
 あれ? そっか。お姉ちゃんは私を殺したこと、お兄ちゃんには秘密なんだ。でもお兄ちゃんなら骨を見てもわたしのだってわかりそう。ほねのずいまで愛してるとか言ってたもん。それにお姉ちゃんは知らない子供なんて殺さないでしょ。
 そういえばあのときおばさんが抱いていた、真っ白なあの子は誰なんだろう。
 ちょうどおばさんがその知らない子供を殺してるときに、わたし入って切り付けちゃったんだよね。もう色変わってたしよくわかんないから二人とも殺すつもりだったけど、もうほとんど男の子は死んでた。
 びゅわって風が吹いた。たくさん花がとんだ。そう、これ、ピンクのお花畑が空中にできるの!
 私が生きてるときに、最後に見た景色! すっごいキレイ! ねえ見てよ、春雪!

 桜の木の下には死体が埋まっていて、その下にもやっぱり死体が埋まっている。

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