5
ダイラは、あの夜に飛行船の墜落事故に遭うまで、飛行船で旅をしていた。その旅には仲間も同行していた。名前は、ディアラの他に、カーラ、ナオミ、ユッシ。
その旅でどこからどこへ向かう予定だったのか、マルヨーケが聞くと、
「過去から未来へ」と、ダイラは答える。「あの飛行船は時空を超えて飛ぶ。何十年、何千年という間隔でも。但し、行き先は未来のみ。仲間はそれぞれで飛行船を持ち、僕の他に四機が同行していた。でもディアラ以外の仲間とは、おそらく時間を超えたときに時間のズレが生じたせいで、離れてしまった」と。
マルヨーケがダイラを助けたあの夜、彼の飛行船は墜落が原因で損傷が激しく、もはやその原形を留めてすらいなかった。
勿論、彼女はその話を信じてはいなかった。
「仲間と会えたら信じてくれるのに」と、ダイラは言った。
彼はもうその仲間を探すために出かけることはなかったが、いつまでも、再会できることを期待していた。
けれど、彼には僅かな時間しか残されていなかった。
6
マルヨーケは、ダイラが亡くなった後で、彼に言われたとおり、彼から貰っていた真珠のような石を花壇に埋めた。
それから何年も、彼女は毎日、テラスから花壇を眺めた。ときどき雪を掻いて、まだ芽が出ていないか確かめた。
十年経った。その年、マルヨーケはある若者と偶然に出会った。そのときに初めてダイラの話を信じた。
その若者は、ユウという名前で、彼はダイラのことを知らなかったが、過去にカーラとナオミに会ったことがあり、以前ナオミが乗っていた飛行船に乗り、カーラを探して、一人で旅を続けていた。
そして、マルヨーケもユウの飛行船に乗った。
二人がたどり着いたのは、ダイラが亡くなった年から九十九年後の未来。
まだ、花壇には花が咲いていなかった。芽も出ていない。しかし、埋めた石を掘り起こして手に取ってみると、石の体積が僅かに大きくなっていることに、彼女は気付いた。
奇妙なことに、それは日に日に大きくなっていた。まるで何かの生き物のように。彼女は、その石をもう花壇には埋めず、肌身離さず持っていた。
一年待つと、石の体積はバスケットボールほどの大きさになった。そして間もなく、そこから一人の子どもが産まれた。