3
一か月ほどして、病院で助手をしていた女がバラックを訪ねてきて、ダイラが余命一年の病にかかっているという診察結果を、そのとき不在にしていた本人の代わりにマルヨーケに伝達して帰っていった。
その頃の彼は、怪我が完治し、女の言ったことが何かの冗談のように、よく働き、休みのときでもじっとしていることはなかった。
時間があると、彼はよくスノーモービルで遠出をした。
それは、あの夜に失ったものを探すためだった。探していたものは、一つだけではないようだった。いずれにしても、探しても見つからないようなものを、彼はしばらく探しつづけていた。
ときどき、彼女も彼についていった。
そういうときは、ふざけたように二台のスノーモービルを競うように走らせて、本当に遠くまで出かけた。
そして、いつしか彼は探すことを諦めた。
4
ふとして、その恋人が眠っている横でマルヨーケは別の男のことを思い出していた。
「このまま深い海の底に沈んでいきたい。それで二度と目を覚まさない」ある日、ベッドの中でその男がそう言ったのだ。互いに若く、まだこれから二人の未来が始まろうとしていたときだった。それなのに、なぜその男がそんなことを言ったのか、その本意は彼女にも分からない。
その男は、それからすぐに、兵士として向かった戦場で戦死してしまった。
けれど、少し前に目が覚めて、横で眠っている恋人を見ながら、幸せな気持ちになって、これ以上の幸せは後にも先にもないだろうと思い、だけどいつか、それも、それほど遠くない先で彼を失うだろうと考えると、ふとして、あの言葉がよみがえったのだ。
「このまま深い海の底に沈んでいきたい。それで二度と目を覚まさない」と、マルヨーケは呟く。そして、この幸福なときのままで時間が止まり、全てが終ってしまえばいいのに、と彼女は思う。
外は、雪が深々と降りつづいていて、暗い朝だった。間もなく、ダイラが目を覚ました。
二人は、目が覚めてからもしばらくベッドの中にいた。彼女はもう眠らなかったが、彼はずっと眠たそうにしていて、浅い眠りから覚めるたびに彼女に時間を確認した。それから二人は口づけをして、短い会話をした。