小説

『ボックス』イワタツヨシ(『パンドラの箱』)

15
 再び、ジェリーは丘の上からその世界の情景を眺めた。
 そのとき、大きく広がる暗がりの中に、ひと際強く、赤く不気味に光るものが目に入ってきた。
「あれは何?」
「あれは飛行船のライトの光だね」と、レインは答えた。「今は、仲間があそこで作業をしている」

 二人は夜の森を奥へ進んだ。
「ベンジャミンたちがエミリーから卵を奪ったことは知っていた?」
「いや、知らないよ」と、レインは答えた。「彼らとは会ったことがない。でも、名前は知っている。ベンジャミン、ジェイ、ウェイド。彼らは、この町の檻の中に閉じこめられていたから。僕は、彼らは他の惑星からこの星の人間が産んだ卵を奪いに来た敵の兵士かと思っていたよ」
「そう、ベンジャミンたちも外に出たのか」
「だから、彼らがエミリーから卵を奪ったなら、誰かが彼らから取り返して持っているかもしれないね」
「やった。だったら早くエミリーとドミニクに教えてあげないと」
「でも、その人間はエミリーに卵を返すつもりはないと思うよ」
「どうして?」
「あの卵から生まれてくる子どものためだよ。あの卵はきみたちとは違う。もしあの卵がまた間違えた側の人間と接触したら大変なことになる」
 そのとき、どこからか草木の葉が擦れる音が聞こえた。風のせいではない。茂みの奥に何かが潜んでいるようだった。
 そこでジェリーが「ごめんレイン」と言った。「僕も一つ隠していたことがあるよ。箱の世界から出てきたのは僕一人だけじゃないよ。一緒に出てきた人間がいる」
 茂みの奥から姿を現したのはエミリーとドミニクだった。
「他にも箱の世界を出た人間がいる?」と、レインはジェリーに聞く。
「クリスとルシア、アマウリーも」
「その三人はどこに?」
「さあ、知らないよ」ジェリーは答える。「でももしさっきまで僕たちの会話を傍で聞いていたとしたら、僕がクリスなら、さっきの飛行船に乗ってこの星を出ていこうと考えるよ。せっかく外の世界に出られたのに、誰にも歓迎されていないと知ったらさ」
「早く彼らを探さないと」と、レインは珍しく取り乱して言う。「きみたちは戻った方がいい」
 しかし、レインの前にエミリーが立ちはだかった。
「私は卵を返してもらうまでどこにも行かない」
「分かったよ」
 しかし彼は突然、捕まれていたドミニクの手を振り払うと、エミリーも押しのけて走りだした。
 すぐに三人も彼の後を追った。

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