小説

『ウニを噛みしめていたい』義若ユウスケ(『私は海を抱きしめていたい』)

「もう秋だけど、あんた大学どこ受けるか決めたの?」
 里乃はオムハヤシを食べている。
「決めてなーい」
 とわたしはいう。
 オムハヤシはハヤシライスより五十円も割高で、ハヤシルーとライスの間に黄色くてやわらかい玉子布団がはさまっている。
 里乃のオムハヤシを見つめながら、なんだかちょっと負けたような気分になりつつわたしはつづけた。
「里乃はもう決めたの?」
「うん、だいたい。関東の国立大学でいいとこを何個か見つけたから、そのあたりを狙ってみるつもり」
「ふーん」
 ふーん、って感じ。
「いまは大学のことなんかより、ボーイフレンドをつかまえるのでいっぱいいっぱいだよ、わたしは」
 とわたしはいった。
「バカ、将来のこともちゃんと考えなさい」
 といって里乃が笑う。
「はーい」
 と、スプーンでハヤシライスを口にはこびながらわたしはいった。
 そして放課後。
 わたしは家に帰ってふたたびパソコンをひらいた。
インターネットに接続。
「スイーツ好き。チャット。」で検索。
 今日は〈スイーツ好きのための意見交換広場〉というページをのぞいてみた。
 そしてわたしは、見つけた。
 運命の人を。
 その人は「砂糖づけ受験生」という名前で、こんなことを書きこんでいた。

 砂糖づけ受験生『ぼくは神奈川県の○○町というところに住んでいる高校生です。学校の近くに〈ふわふわボンバー〉という喫茶店があるのですが、このあいだそこの黄金モンブランというケーキを食べました。とても、美味しかったです』

 いや、ときめいた。
 神奈川県の○○町?
 知ってる。

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