小説

『ウニを噛みしめていたい』義若ユウスケ(『私は海を抱きしめていたい』)

 いいことも悪いことも、いつも二人でやるのだ。
 放課後、わたしは家に帰ってさっそくパソコンをひらいた。
 インターネットに接続。
 さてさてどうしたものか。
 映画とおなじように、文学のことを話し合うチャットルームに潜入してみるべきだろうか。
 でも、わたしは文学のことなんてなんにも知らない。きっと専門的な話にはついていけないだろうし、なんなら本を読むことをバカらしい行為だとさえ思ってる。
 文字のつらなりなんかに感情をゆさぶられて泣いたり笑ったりするのって、変だ。すごく変。
 うん、やめとこう。
 文学青年なんてお断り。
 ではではなにがいいかしら。
 わたしの趣味は、美味しいお菓子をたべること。
 わたしは甘党なのだ。
 チョコやケーキに目がない。
 よし、スイーツ好きの集まりを探そう、と決めて、わたしは「スイーツ好き。チャット。」とネットに打ちこんだ。
 検索。
 スイーツ関連の掲示板がたくさん見つかった。
 いちばんはじめに目についた〈スイーツ狂たちのための部屋〉というページに入って、わたしは最新の会話のやりとりに目を通してみた。

大福マン『ところで、最近、さつまいもかぼちゃキャロット・アイスという新商品がでたね』
チョコミントガール『あ、知ってる! コンビニに売ってた』
プリンアラモード太郎『たべたよ。味はまあまあだね。美味しいけど、一回たべたらもういいかな、ってかんじ』
グミ女『わかる』
大福マン『うん。ちょっとくどいよね』
グミ女『なんか、ごちゃごちゃした味だなって思った』
プリンアラモード太郎『詰めこみすぎたんだよ。あんなのより、かぼちゃオンリーのアイスがたべたかったな』
チョコミントガール『あ、いいね。じゃあうちはにんじんアイスがたべたいかな』
大福マン『さつまいもかぼちゃキャロット・アイスって、なんでさつまいとかぼちゃは日本語なのに、にんじんだけ英語でキャロットにしてるのかな?』
グミ女『さあ、なんでだろ』
プリンアラモード太郎『神のみぞ知るだね』
グミ女『いや、神って……それをいうなら製造会社のみぞ知るでしょ』
大福マン『うむ、ちがいない』

1 2 3 4 5 6