小説

『SFA‐20 ~立ち枯れた脳~』 蟻目柊司【「20」にまつわる物語】(『ピノッキオの冒険』)

「二十歳です。今日、なりました」
「今朝の朝食は何でしたか?」
「高タンパクブロックです。配達用ドローンが自宅に運んできました」
「あなたの夢は何ですか?」
「夢? あの、よく分かりません。長生きしたいかどうかという意味ですか?」
「あなたの好きなものは?」
「フィッシュブロックが好きです」
「あなたの名前は?」
「田村悠介です」
 俺が機材の中で横たわり返答を続ける間、頭にはめられた器具からは微弱な電流が流れ続けていた。
「問題なくスキャニングが完了しました。これよりデュプリケート作業に移ります。同時進行でベリファイもとるので、できる限りじっとしていてください」
 俺は、この脳みそを使うのも今が最後かと呑気に考えていた。あらゆる情報処理が電子的に行われている時代に、それを扱う俺たちの頭がアナログという方が不自然だったんだなと、そんな風にさえ思えた。
「お待たせしました。問題はなさそうです。念のため動作確認を行いますので、その間に移植作業のための全身麻酔を済ませてしまいましょう」
 そう言ってアンドロイドは俺に点滴の針を刺した。無色透明な薬液が血管に流れ込むと、しばらくして俺の身体は自由を失い、意識が薄れ始めた。

「ん。あれ、もう終わったんですか?」
「恐れ入りますが、まだ動作確認中です」
「そうですか。目が見えないんだけど、これも麻酔のせいですか?」
「いえ、お客様に麻酔は施しておりません。全身麻酔はあくまで旧来のお身体にのみかけております」
「旧来? あの、よく分からないんですが」
「まだ移植作業が済んでおりませんが、動作確認のためお客様のデジ脳をソフトウェアを介してマイクとスピーカーに接続し、会話が出来るようにだけしております。まだ視覚は機能しておりません」
「俺はもう、デジ脳になったんですか?」
「ええ、動作確認も問題ありませんでした。あとはお身体に繋ぎ直すだけです。ところで、使い終わった旧式の脳はどうされますか?」
「どうって、捨てちゃうんじゃないんですか?」

1 2 3 4 5 6 7 8 9