「変な生き物ね」
アリは笑った。
「女王様が一番大変で泣いているなんて、変な生き物」
そうかもしれない、私はその言葉が出ないまままた泣いた。
「ちょっと!ちょっと!また私の足が濡れちゃうじゃない!もう行くわ!」
アリはそう言うと、一目散に駆け出した。
「女王様は偉いのよ!キリギリスみたいに遊んでいるわけじゃないんだから、あなたももう少し、自信をもって!」
遠くで、アリのそんな声がした。
ふ、と顔を上げる。誰もいない。す、と私は立ち上がった。もう一度スーパーへ行こう。確か、駅弁特集をやっていた。これからまたお昼を作らなきゃいけない、と思っていたけれど、そんなに気負わなくてもいいじゃないか。
女王アリにはたくさんの働きアリがいて、いろんなことを助けてくれるけど、私には夫しかいない。そう思い込んでいたけど、お弁当を作って売ってくれている人たちがいる、その手を借りるのも、たまにはいいじゃないか。
「ただいま」
玄関のドアを開けると、娘は夫の腕の中で眠っていた。なんだ、夫にもできるじゃないか。
「今日のお昼は駅弁でーす」
「おお。いいね」
リフレッシュできた?夫の言葉に、私は笑顔で答えることができた。
寝ている娘の頭を撫でて、私は思った。
アリにバケツで水をかける遊びはしちゃいけないって、教えてあげなきゃ、と。