小説

『アリとキリギリスとニンゲン』高元朝歩【「20」にまつわる物語】(『 アリとキリギリス 』)

「変な生き物ね」

 アリは笑った。

「女王様が一番大変で泣いているなんて、変な生き物」

 そうかもしれない、私はその言葉が出ないまままた泣いた。

「ちょっと!ちょっと!また私の足が濡れちゃうじゃない!もう行くわ!」

 アリはそう言うと、一目散に駆け出した。

「女王様は偉いのよ!キリギリスみたいに遊んでいるわけじゃないんだから、あなたももう少し、自信をもって!」

 遠くで、アリのそんな声がした。
 ふ、と顔を上げる。誰もいない。す、と私は立ち上がった。もう一度スーパーへ行こう。確か、駅弁特集をやっていた。これからまたお昼を作らなきゃいけない、と思っていたけれど、そんなに気負わなくてもいいじゃないか。

 女王アリにはたくさんの働きアリがいて、いろんなことを助けてくれるけど、私には夫しかいない。そう思い込んでいたけど、お弁当を作って売ってくれている人たちがいる、その手を借りるのも、たまにはいいじゃないか。

「ただいま」

 玄関のドアを開けると、娘は夫の腕の中で眠っていた。なんだ、夫にもできるじゃないか。

「今日のお昼は駅弁でーす」
「おお。いいね」

 リフレッシュできた?夫の言葉に、私は笑顔で答えることができた。
 寝ている娘の頭を撫でて、私は思った。
 アリにバケツで水をかける遊びはしちゃいけないって、教えてあげなきゃ、と。

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