小説

『不思議な時間の中の私』春日あかね(『不思議の国のアリス』)

「エッヘン!」誰かが咳払いをした。目を覚ましたヤマネである。

「じゃあ、話題を変えよう。今度は文学だから安心してくれ給え」ヤマネは場を取り持とうと必死だった。けれど、却って、その場の雰囲気を悪くするものだった。というのは、くだらないことだらけだったから。

 物語はこうである。
「昔々、三人姉妹がいました。名前は、エルシー、レイシー、ティリー。そしてこの姉妹は、井戸の底に住んでいました…。3人はお絵描きを習っていました」

 が、物語を聞いているうちに、私はなんだか一つ一つのことに突っ込みたくなった。

「何を食べてたの?」
「甘い蜜だよ」
「何を描いて(かいて)いたの?」
「甘い蜜だっつーの!」

 ヤマネは、時々入る突っ込みにイライラしているようにも思われた。私はヤマネをこれ以上イライラさせないように気を遣いながら、ヤマネの話に耳を傾けようとした。けれど、やっぱり突っ込みたくなる瞬間がある。

「その姉妹たちって、井戸の中にいたんでしょ?」
「そうそう」
「その姉妹って、どこから甘い蜜をかき(描き)出したの?(実際の『不思 議の国のアリス』ではどんな話だったかしら?)」

帽子屋 ー 「井戸から水をかき(掻き)出すんだろ?」
私   ー 「は?」
ヤマネ ー 「水じゃない甘い蜜だ。井戸から甘い蜜をかき(搔き)出すんだよ」

 話はまだ続く。

 姉妹たちが習っていたお絵描きは「あ・い・う・え・お」で始まるものならなんでも…」
「なんで「あ・い・う・え・お」なの?」私は尋ねた。
「何かいけない?」と、三月うさぎは不満そうだった。私は一瞬黙ったが、答えを考え始めた。

「あずき!」-「ブッブー!残念!」
「いくら!」-「またまた、残念!」

1 2 3 4 5 6 7 8