小説

『Golden Egg』室市雅則(『金の斧』)

「良し良し。ほらほら。男の子か?あ、女の子か。可愛い、可愛い」
男が赤ん坊の頭を撫でた。
赤ん坊は泣き止み、笑った。こんな事があるのだろうか?女神の奇跡。もしや妻の生まれ変わりか?
赤ん坊の体の向きを変え、右脇腹を見た。
妻には生まれつきの小さな痣があった。
この子にはない。
赤ん坊がぐずり出したので、再び正面に向きを戻した。
「おー、良い子、良い子」
赤ん坊が満面の笑みとなった。
男は自分の胸元が温かいことに気が付いた。
――これが人の温もりか。
徐々にその温もりが胸元から腰、下半身へと広がっていった。
――ん?
男は己の体を見た。
ずぶ濡れ。
赤ん坊が小便を盛大にしていたのだった。
――帰ろう。
男は赤ん坊を抱きかかえたまま泉に背を向け走り出した。
泉は再び静かになった。
と思いきや、すぐに男が戻って来た。もちろん赤ん坊を抱えている。
――女神様。頂きます。
銀貨を一枚残らず拾い集めると泉に礼をして、駆け出した。
――名前はどうしよう。

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