小説

『20th birthday sex』岸辺ラクロ【「20」にまつわる物語】

僕が色黒男とスーツの男に挨拶して廊下を通り部屋を出ようとした時、彼女が飛び出してきた。そして裸で、僕のことを抱きしめた。
「私も頑張るので、あなたも頑張ってください」
 僕は、今までしたことがないような大人の笑みを浮かべて、「立花さんも、お体に気を付けて」と言って足早にその部屋を後にした。僕は二十歳になったのだ。帰りの駅のnew daysで初めてビールを買って飲んだ。ビールは苦くて飲みきれず、中身の半分は渋谷駅のトイレに捨てた。
 あれから五年がたち、僕は四人の女の子と付き合って、一人とセックスした。セックスした女の子は処女で僕は童貞だよ、と彼女に言った。彼女も立花さんと同じように、手首に蚯蚓腫れの後があった。
 僕はあの撮影のあと何度も立花美里という名前をグーグルに打ち込んだけれども、僕が彼女とセックスした作品はおろか、彼女のこともいつまでも見つけられなかった。
 もうすぐ30歳になる。休日は犬の散歩ばかりしている。

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