玄が、うそみたいな残酷な話を打ち明けた。
映ちゃんほんま、ごめん。
あれな、俺のいたづら。
いたつらってなに?
写真のこと。
うん、雑踏の彼やろう。
でな、あれは彼やないねん。
彼女なん?
いや彼らっていうのが正解かな?
え? だって映ってんのは男の人やん。
だから、ちゃうねん。
もうわからへん。
あれ、映ちゃんのお父さん社長とな俺の合作でな。キタの繁華街でさ、俺たち雑踏を撮っててん。それと声もな、社長と俺の合成。生前の社長の声のサンプリングからな。映ちゃん聞いてる?
うん。
うんって頷いたあとの玄の言葉はあまり耳には入らなかった。
声が懐かしかった理由もわかった。映があこがれていたあの彼は、彼らだった。
雑踏で無作為に撮っていた繁華街を歩いていた人たちをひとりずつ撮影して、彼らの眼が重なりあうように一枚の印画紙に重ね焼きしたものだと玄が教えてくれた。見知らぬ人どうしの20人の瞳が重なり合った作品。
映は彼ら20人の瞳をそれぞれ想像しようとしたけれどうまく像を結べなかった。つまりあれは映が、こわいねんって嫌っていた雑踏の彼らだったのだ。
どうみてもたったひとりの男の人が、なにかを思い詰めたようになにかを見つめていると思っていたその視線。それはたったひとりのものではなくて、数々のサラリーマンや学生などのひとりひとりが重なりあった、ある種の群像写真だった。たくさんの人の顔のはずなのに、いつしかひとりのひとのように見えてしまう
被写体のむこうにもたくさんの<よそのひと>か隠れていた。
玄がひたすら謝っている姿をみながら、ふと玄の瞳とチチとじぶんの瞳を重ねたらどんな顔になるんやろうと、仏壇のチチの遺影の写真を、焦げてしまうぐらい映はじっとみつめていた。