小説

『永遠に』ウダ・タマキ【「20」にまつわる物語】

 私は、雨が降る外の様子を見ながら歌を口ずさむ。小さな頃、こんな雨の日は決まって母さんが傘を持って迎えに来てくれた。だから、私は子供の頃から雨が好き。家に帰ったら今日は温かい豚汁が食べたいな、なんて願ってみる。母さんの作る豚汁は格別だから。
「どうしました、スミレさん」と、若い男性の声がするので、ひょっとして、と思い満面の笑みで振り返ってみると、やはりあの青年が立っていた。そうだ、私は彼との食事に備えて洋服を買いに行こうと、お金を取りに戻る途中だった。「あなたの好きな色はなんです」「僕は、赤が好きですねぇ」「そう?私も。気が合いますね」「本当ですね」もっと色んなことを聞きたいけれど、それは後のお楽しみにしておこう。それより、早く洋服を買いに出掛けないと。赤いワンピースなんて良いかもしれない。
「良ければ、一緒に戻りますよ」青年は紳士な振る舞いで手を差し伸べ、私は遠慮することなくそれに応じた。母さんにどう話そうか、なんてことを考えてしまう。
 部屋に戻ると、なんだか少し疲れた感じがしてベッドで横になった。いつの間にか眠ってしまったようで「スミレさん!」という目覚めに悪い嗄れた女性の声に起こされた。
「夕御飯ですよ!」「はい、どうも」私はゆっくりと身を起こす。いつの間にか窓の外は薄暗くなっていた。少し頭がクラクラとする。仕事の疲れが出てしまっているのかもしれない。来週くらいに1度休みの相談をしてみよう。そう思いながらカーテンを閉めようと立ち上がると、誰かが外からこちらを覗いていることに気付く。それは、真っ白な頭のおばあさん。いい歳して人の部屋を覗き見るなんて、どうゆう神経かと腹が立つ。私は「ベーッ」と、思いっきり舌を出した。すると、自分が悪いくせに同じように舌を出して返してくる。なんと非常識な老人。私は文句を言うことさえ馬鹿らしく、そっぽ向きながらカーテンを閉めた。こうゆう老人にはなりたくない。
 夕食のおかずは塩けのない焼き魚と茹でただけのようなほうれん草のおひたし、そしてだし巻き。「美味しいですか?」「ええ、とても」なんて、社交辞令を言いながらだと、さらに美味しくない。久しぶりに田丸宮町にある洋食屋のオムライスが食べたい、なんて考えながら柔らかすぎるご飯を頬張る。青年との食事は、あの洋食屋もいいわね。何という店名だったかな……結局、夕食は半分くらい残してしまった。お膳が下げられると、すぐに嗄れ声が薬を持って来る。いつの間にか風邪でも引いたのかな、と思いながら一気に飲み込んだ。
 私は、夜があまり好きではない。
 暗闇に向かう空が、まるで終焉を迎えるように思えるから。夜は読書に更けるのが一番。何にでもなれるし、何処へでも行ける。空を飛ぶことだってできる。

 今日、私は何になって、何処へ行こう―

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