それにそって錐に畳折り、また折り目を付けてゆく。
途中の行程でも、折り紙で何を折ろうとしているか分かった。
「折り鶴?」
思わずに口に出していた。
それに驚いた様に琴美ちゃんは振り返る。そして誰が居るかに気付き、ばっと卓上を両手で覆い隠してしまう。
きっと睨みつける様に彼女は僕を見ていた。
「あ……ごめんね。何でもないよ」
その目にこちらも驚き謝り、すごすごとその場から離れた。
少し驚いた。あんな目をして。隠す様な事でもなかったろうに。
後に周囲に聞いた話だと。
最近の琴美ちゃんは避難所に帰ってくると、暇さえあれば机に向かって折り鶴を作っているそうだ。
千羽鶴。入院している母親の為にだろうか。
その時は素直にそう考えた。
「あっという間だったな~二週間なんて。やり切れてない事ばかりだったが」
背伸びをしながら言ったのは奥村さんだ。確かにそうだ、と僕は無言で頷き返した。
「佐伯君は帰るのかい? このまま。どうせなら送ろうか」
「いや、大丈夫ですよ。東京までの深夜バスを予約してるんで。同じ方向の人達と寿司詰め状態で帰りますよ」
「そうか。それはそれで大変だ」
二人で笑い合った。
笑いながら、本当に心残りばかりだと思う。やり切れてない。奥村さんの言う通りだった。
「オッちゃん。もう駅の方に向かわないと。慌ただしい感じで……」
そう奥村さんに別れを言い掛けた時だ。僕の服の裾を誰かが引っ張ったのは。
振り返ればそこに琴美ちゃんがいた。
あっと驚いたが何しに来たのかは直ぐに理解した。先日前から今日、帰るとは教えていたから。
何だかんだで御見送りに来てくれたのだと。
「有り難うね、琴美ちゃん。御見送りしてくれて。お兄ちゃん何もしてあげられなくて……」
口上途中だ。急に琴美ちゃんは、背中に隠し持っていた物を突き出してきたのは。
バサリと音を立て目の前に出してきたのは、小ぶりの千羽鶴の束だった。
「え? 僕に?」
最初は理解に苦しんだが、琴美ちゃんの雑な渡し方が、はにかむ感情の表れだと見て取れると、本当に僕にくれるのだと分かった。