小説

『葦です』室市雅則(『パンセ』パスカル)

え?もう一度仰って頂けますか?は、はい。『本当によく考えている葦だ』ですか?ありがとうございます。そうなんです。よく考えているんですよ。私はそれをお伝えしたかったんです。我々は、あ、少なくとも私は、ない頭ながらも考えに考えておりまして、もし可能であれば、是非この知恵を人間様のお役に立てないかと願っているんですよ。
 本当ですよ。本心です。ですからね。
あ、作業を再開される?もうちょっと。
あのー、イギリスの諺に、あてにならないことを『折れた葦』とか『葦によりかかる』と言っているんですが、そんなことはありません。ご覧になって下さい。この漢方にも使われる茎を。あと、フランスでは都合によって節操を変えることを『全ての風になびく葦』なんて言うですが…え?今の私みたいですって?これはお手厳しい。
 いや、私が申し上げたいのはですね、物の本によりますと旧約聖書にも我々が出ているようですし、万葉集では五十首も登場しているんですよ。さらに『アシ』が『ヨシ』この二つの呼び名がある理由というのが、『アシ』が『悪し』に通じるのを嫌って『善し』にちなんで『ヨシ』なんです。それと葦の数え方は『本』ですが群生していたら『村』と数えます。あと花言葉は『深い愛情』、『音楽』、『神の信頼』です。それに、それに…
ちょ、その手に握った鎌をお戻し頂いて。あ、駄目?
 えーっと、葦、蘆、葭の違いは前から『成熟したもの』、『穂がすっかり出揃わないもの』、『穂が出ていないもの』なんですよって、これ口頭じゃ区別が付かない。私のバカ。
あ、鎌が振りかぶられる。やばい。
えーっと、モノマネします!
隅田川に間違って泳いできたアシカ。
 え、黙れ?
わー、どうしよう。あれ、お待ち下さい!日よけの帽子を取ってお顔をお見せ頂けますか?そうです。あれ、その目は、もしかして、生き別れになった兄さん?あ、一人っ子で。
これは万策尽きた。万事休す。絶体絶命。
こうなったらもう手も足も出ませんよ!
 元々なーい!
どうですか?これ最近考えたギャグなんです。忘年会で使えるかなって。
 は?何ですか?
パスカル?ラスカル?ケミカル?マジカル?え、違う?どれでも無い?
もうかる?儲かっていらっしゃるとはさすが!よ、日本一!よ、敏腕社長!え、違う?
 もう刈ると仰った?あ、もう鎌で刈るのですか。
 これは足をすくわれてしまいましたよ!
元々なーい!
 え、これでも駄目?
残念。さようなら。

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