小説

『誠実な自供』和織(『兎と猫』魯迅)

「最初はね、実は鴉なんです。いや、きちんとお話ししなくちゃいけないんででしょう?だから最初からお話しします。私だって大事なところを端折られて報道されるのは嫌ですからね。罪が重くなる?罪?それはあなた方の考えだ。いえ、否定なんてしませんよ。それがあなた方の仕事でしょう。とにかくね、最初は鴉です。朝方、五月蠅くてね。妻も娘も怖がっていたし、皆迷惑していたんです。三、四羽いたんですけどね、いつも一番大きな奴が最初にゴミを漁るんですよ。で残りを、その他のがね。鴉っていうのは本当に賢いですね。最初ね、薬入れ過ぎたら、食べなかったんですよ。だからね、臭いがキツイやつに、ちょっとづつ入れて、そうしたらやっと食べました。だから死ぬまでに結構かかりましたね。本当はすぐにころっとやってやるつもりだったんですけど、ああ、死んだのは一番大きな奴だけです。あれが死んだら、他のは来なくなりました。まぁ結果、静かになったんでよかったなと。鴉が来なくなったって、皆喜んでましたしね。え?いえ、通報されるのが怖かったわけじゃありません。私がやったと、わざわざ言う必要はないと思っただけですよ。捕まるなんて考えもしなかったですね。だって善意でやったことだったのに。それに鴉はすぐ回収されて、私たちが被っていた害と一緒に燃やされました。よかったという想いの後に、あの鴉の存在が残ることはありません。皆すぐに忘れます。少し離れた場所に住んでいた人たちは、そんなものが居たって事すら知りませんよ。でもこれも、あなた方からしたら「罪」な訳でしょう?だからお話するんですよ。そちらが、適切に判決を下せるようにね。で、次は猫です。・・・・だって、過程の話ですから。ここがロープの先端ですよ。ええ、そう、五月蠅かったですね。発情期は特に。餌を与えられて野良が増え続けて、区でいくら去勢手術して回ったって、増え続ければ鼬ごっこだし、費用だって増える分かかる訳ですから何にもいいことはないじゃないですか。はい、同じです。薬入りのミルクを置いておきました。一匹また一匹と死んでいくうちにね、ちゃんと証拠を押さえました。写真を撮ったんです。最初から大体目星は付いていましたから。それでね、家を訪ねて、本人に突きつけました。裏庭で猫に餌付けしてる写真を。その頃にはもう、確認していた限りでは五匹に減っていたので、その五匹、ちゃんとここで飼う気があるかって訊きました。そのくらいなら、その家でもギリギリ大丈夫じゃないかと思ったので。もちろん、そうさせる為に私が他の猫たちを排除したことも話しましたよ。でもね、そしたらあのおばあさん、なんで猫を殺したんだって、私に突っかかってきて、もう話にならないんですよ。でもなんとか意志だけは確認しようと思って、ここでちゃんと面倒を見るのなら、あの五匹は殺さないって言ったんです。そうしたらあのおばあさん、なんて言ったと思います?「そんなこと、この歳で独り身なのにできる訳ないだろう」って言ったんですよ。私はそのとき初めて、猫をかわいそうだと思いましたね。何の責任を負うつもりもなく、ただ自分の寂しさを癒す為だけに利用されていたんですから。だからね、死んだ猫たちは、みんなあんたの家の庭に埋まってるって教えてあげたんです。そうしたらね、今度は「なんて気味の悪い!」って。ええ、わかっていたつもりでしたけど、ああもはっきり言われると・・・ですから、そのとき決心したんですよ。元凶を消さないことには物事変わらないってね。別に、神になったつもりなんかありませんよ。あなた方、すぐそう言う風に考えるんですね。私はただ、微弱なから自分にできることをしただけです。はい、おばあさんを首を絞めて殺したことに間違いはありません。あ、でも残りの五匹の猫は見逃してやりました。不憫でしたし、二匹雌がいましたが、去勢が済んでいましたので。何より、あのおばあさんが死んだことで、餌をやる人間がいなくなりましたから。え?ええ、そんなことはわかっていますよ。野良猫に餌付けしてる人間は他にもいる。鼬ごっこは終わらない。自分のしたことの効果が一時的なことはわかっています。けれど私はあの地域に一つの事実を残しました。周りに迷惑を与える者が、身近なものの手によってきちんと抹殺された、という事実です。私がいなくなっても、規律を守ろうとする人間が居続ければ、それは続いていくかもしれません。え?いやいや、これは希望的観測というやつです。深い意味はありませんよ。はは」