小説

『飛べなかった記憶』高橋己詩【「20」にまつわる物語】

 だが確かにテレビの中に、フラミンゴたちの中に、タケコの顔があった。

 あれからもう、何年が経っただろう。
 こんな片田舎の隅に建てられていた小学校に、私は通っていた。廃校の噂が色濃くなっていた当時、児童の数は全体を合わせても二十一人。廃校の噂のためにそれだけ減ったのか、それだけ減ったから廃校となったのか。いずれにせよ、結局廃校となってしまっている今よりも、二十一人多いことになる。
 私の親友であるタケコは、ある時までは男子よりも活発だった。その割に取り立てて問題視されるようなこともせず、むしろ模範視されることが多かった。それに、学校の皆と友達になる、と作文で発表までした目標は、ほぼ達成していた。今にして思うが、自分を除いた二十人全員と仲良くなることは、二百人の中から百人と仲良くなるよりもよっぽど難しいことだ。
 私とタケコは、いつも一緒にいた。目を離すとタケコは他の誰かと一緒になってしまうのだが、それでも結局は私のところに帰ってきてくれた。何をするにも一緒。好きな男の子の名前だって教え合った。
 ある時タケコには、タケコプターというあだ名がつけられた。あの漫画に出てくる、あのタケコプターだ。最初にそう呼んだ男子児童に悪意はなく、単なるコミュニケーションの一環だった、と思う。しかしタケコの様子を鑑みると、それは相対的に、悪意があったと認めるべきなのかもしれない。初めてタケコプターと呼ばれた日、彼女は下校するまで不服そうな顔をしていた。
 変化は加速度的だった。はじめは同級生だけがそう呼んでいたのだが、たちまち上級生や下級生にも波及した。元々二十人程度が同じ場所で生活をしているので、同じような現象はそれまでに何度も起きていた。学年の隔てなくあだ名をつけ合うことは、むしろ珍しいことではなかった。
 そして変化はもう一つ。翌日からタケコは、学校にあらゆる参考書や専門書を持ち込むようになった。そのどれもが難しい漢字と数字の羅列で、当時の私には目次を読むことすらできなかった。あの頃は確か全員が掛け算に苦戦していたところだったが、タケコはアルファベットだらけの数式を睨みつけ、それを読み解くことに必死になっていた。
 タケコの容姿にも変化が表れた。簡単に言えば、太った。ぽっちゃりという程度ではなく、ヒッチコックのシルエットのように丸みを帯びたのだ。その時の体重は、あだ名をつけられる前の二倍にも及んでいたそうだ。もともと華奢な体格だったから、少しでもタケコプターらしくない人間に近づこうとしていたのかもしれない。そんな私の憶測は、確認する術がもうない。
 ある時のこと。磁石を教材にして理科の授業が進められていた。磁界の存在を確かめたり、磁気を帯びている身近なものを探す。実験はもはや当時の私たちにとって遊びになっていたが、だからこそか、楽しい思い出として印象に残っている。

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