小説

『魂齢を量る階段』小原友紀(『お階段めぐり』)

 不自由さに足掻いていると、力強い躍動が満ちてくる。が、次第に力が抜けて錆びついたように重くなる。しばらくすると、瑞々しい力に湧き上がるが、少しずつ収束し、またしても失われていく。幾度となく巡る誕生と死滅の輪は果てなく繰り返され、何十何百と永遠に続くかのようである。降りることを許されぬ輪の内に巻き込まれ、憤りと悲嘆に苛まれ続ける中、ある一点を思い描く――止められぬならば、一筋の光が巡り来る瞬間を待ちわびる。
 長身の父親似で、同年代の大抵の者より上背があった。小柄な母親に十歳で追いついて、頭半分程高くなった。子供の成長は早い、あなたはこれから、まだまだ伸びていく――息も絶え絶えに、病床から弱々しく延べられた、やせ衰えてなお温かかった手の感触を想い起こす。
 階段の流動が止まった。世界を圧していた黒々しい靄は霧散し、雲海のような目映い光の平原が、目下に広がっている。
「定まった――その姿こそ、来世における汝の魂齢」
 すらりと伸びる長い筋肉質の手足が、はっきりと見える。艶のある黒髪は、階段に吹く爽やかな風になびき、踊るように翻る。
「心のままに進むがよい、汝の今生へ」
 有り余る熱と力を生み出さんとする、思春期を駆ける青年の四肢だ。
「誕生祝いには、あれを貰うがよい」
 門出の手向(たむ)けか、声は透明に澄んで、歌うように軽やかに言い放つ。
「――あの兎の縫(ぬ)い包(ぐる)みを」

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