俺も、近所でも評判の安藤のお父さんを見てみたかったし、うちに一本電話入れればいいかなと思って。それで安藤の家にお邪魔することになったんだ。
安藤の家に行ってみたらすでにお父さんが居て、安藤のお母さんと一緒にキッチンでご飯の準備をしてくれてたんだ。
「いらっしゃいヨシ君。今日はたくさん食べてくんだよ。ヨシくんのおかあさんには電話しといたからゆっくりしていってね」
「ありがとうございます。おじゃまいたします」
安藤のお父さんは、お母さんの料理の手伝いをしてる最中も仕事の電話を受けたり、書類の整理をしたり、かと思えばまた料理の手伝いをしたり……。ひっきりなしに動いてた。ご飯ができるまでの間、俺たちはテレビゲームやったりして遊んでたんだけど、豪勢な食事が終わった後は安藤のお父さんが一緒に遊んでくれた。夏だったのもあってご飯の後でもまだ外が明るくて、一緒にキャッチボールしたり水鉄砲で水かけあったり線香花火やったり、めいっぱい遊んでくれたんだ。空に一通り星たちも出揃って、俺たちは三人で縁側に並んで座って、安藤のお母さんが持ってきてくれたラムネを飲んでたんだ。さすがの俺も疲れ果ててそろそろ帰ろうかなと思った時、安藤がこんなこと言い出したんだ。
「ねぇねぇ、お父さん、あれやっていい?」
「あれか?しょうがないなぁ。ヨシくんもそろそろ帰らなきゃならないからちょっとだけだぞ?」
「わかってる。ちょっとだけでいいから」
「よし、じゃあやるか。ヨシくんもやってみるか?」
俺は何のことかわけがわからず、ただ、安藤の動きを目で追ってるだけだった。すると安藤はおもむろにお父さんのすねの辺りを手のひらで時計まわりにぐるぐるとやりだしたんだ。ふさふさと生えていた安藤のお父さんのすね毛が何個かの塊になっていく。
「あぁ、蟻だ!僕も一回やってみたかったんだ!おじちゃん、僕もやってみてもいい?」
ほら、俺片親だろ?だからその時まで一度もすね毛で蟻を作るってやったことなくて。俺は、はしゃぎながら安藤のお父さんのすね毛をぐるぐる手のひらで回しはじめたんだ。しばらく二人で安藤のお父さんのすね毛をぐるぐるぐるぐるやって、何個も蟻を作った。
「わぁ、蟻だ。おじちゃんありがとう。僕初めて蟻作ったよ。なんかこうやって眺めてると本当の蟻みたいに見えるね」
「ヨシ君、これからが本番だよ」