小説

『蟻』杉長愁(『蟻とキリギリス』)

 僕がビールを頼み終えると同時に、安藤の携帯電話が鳴った。
「しまった。今日飲みに行くこと奥さんに言い忘れてた」
「なんだよ。そんなこといちいち言わなくちゃいけないのかよ」
 博文が口を挟む。
「そうなんだよ。ちょっと出てもいいか?あ、もしもし。ごめん。忘れてたよ。ごめんごめん。次からはちゃんと言うから。そう、博文とヨシだよ。うん。はい、わかりました~」
 またも博文が口を挟む。
「お前完全に奥さんの尻に敷かれてるな」
 僕もたまらず博文と笑い転げた。
「そうなんだよ。まさにうちに、〝女王あり〟って感じで……」

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