彼は、「理解」されることではなく、「受け入れられる」ことを是とした。確かにそうだ、と思った。
こういう人がいるのなら、もう少しだけ頑張ってみようかな。当時、そんなことを考えていたのを覚えている。
たった一言で彼に惹かれたのがわかった。でも、この気持ちをどう伝えればよかったのか。言葉にしようとすると、自分の伝えたい気持ちが歪曲されてしまう気がしていた。
彼への複雑な気持ちを引きずりながら、私は毎日を過ごしていた。時が経つほどに薄れていった思いだったが、どこかで私の中で残り続けていて、彼を大学のキャンパス内で見かけたとき、それは甦ってきた。
彼は私を見ていた。私も彼を見ていた。二人とも一歩ずつお互いに近づいていった。内側の思いを伝える手段を探しながら。
「ねぇ」
「何?」
「何を言っても嘘になってしまう気がするのだけど、話してみてもいい?」
「いいよ。僕もうまく話せる気がしないから」
「ありがとう。あのね、あなたに会いたかったの。とても、ものすごく、かなり。形容詞でいくら修飾しても足りないくらい」
「僕も会いたかった。そして、確信していた」
「何を?」
「こうやってもう一度会うことを、だよ」
「なるほど。言われてみると私もそんな気がする。あなたにもう一度会うときのために、言葉を取っておいた、そういうことね」
「そういうこと」
「それで? 何から話せばいいの? できたらあなたから話してくれたら嬉しいのだけど」
「そうだね。じゃあ、聞いてくれるかな?」
「みにくいアヒルの子の冒険譚を」